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今はその伊藤の前に分厚いファイルが数冊積まれ、伊藤の隣では総務部長がパラパラと資料をめくっている。資料を読んでいるのか、めくっているだけなのかはわからない。
「すいませんでした」
座り直して、正面を向く。目の前には、赤いネクタイの伊藤と深緑のネクタイをした総務部長。クリスマスカラーで揃えたのか、偶然なのか。二人のネクタイに目が行ってしまう。
「沢口さん、サンタクロースをいつまで信じてました?」
「え?」
思いがけない質問に素で反応してしまい、秒でまずいと気づいて姿勢を正す。
「幼稚園までは」
――本題に入る前に、緊張感をほぐすための会話かな。
小学校で友達にサンタクロースの正体はお父さんだと言われた時の、驚きと戸惑い。信じられなくて母親に嘘だよねと聞いた。
『バレたか。でもお父さん、結構うまくサンタさんやってたよ。万が一、蘭に見られても大丈夫なように毎年サンタさんの恰好してたんだから』
あっさり肯定されたときの虚脱感は今でも覚えている。
「やっぱり、それくらいだよね。僕も幼稚園の娘がいるからさ、毎年必死にサンタクロースやってるんだよ。部長はどうでした?」
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