門出を飾るスイートピー

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門出を飾るスイートピー

 乗れるだけ乗り込み、ぎゅうぎゅう詰めになった通勤電車。同じ時間の同じ車両には、いつもの顔ぶれが乗っている。  冬の寒さをもろともせずに、生足をさらけ出す女子高生二人組はそろって参考書を開いている。反対側では、女子高生の父親世代と思われる男性が新聞の経済面を熟読している。そして目の前、座席に座って眠っている女性は膝にヴィトンのバックを置いている。その隣では男子高校生がスマホでゲームに勤しんでいる。  去年の四月、沢口蘭が通勤電車に乗るようになってから変わらない顔ぶれだ。高校生組が卒業したり、隣の男性と目の前の女性が異動にならない限り、私を含めて次の四月もこの車両に乗っているのだろう。  窓の外、朝の冬空は灰色だ。今日は新宿が近づくにつれ、灰色が濃くなっている気がする。天気予報では夕方から雨か雪。  クリスマスイブの今日、雪が降ればホワイトクリスマスだ。  雪が降ると帰りの電車に遅延が発生しかねないから、できれば避けてもらいたい。そう考えるのは蘭のような独り身の人間か、サラリーマンのお父さんたちくらいだろう。
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