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1.プロローグ
長野県安曇野市。
上高地や梓川など、夏の観光地として有名な静かでのどかな避暑地。
カメラマンの彼は、三人で東京から来ていた。
梓川の支流である犀川(さいがわ)へと上り、やっとの思いで、山々に囲まれた絶好のポイントを見つけた。
「この辺りで今日はトライして見ようか」
「疲れたわ〜。もう限界です〜」
今売りだし中の新人モデルがボヤく。
「まぁまぁ、ボヤいてないで、いいところじゃないか。先生、あの岩辺りでいいですか?」
「いいね、やってみよう。よろしく!」
モデルが服を脱いで、水着になる。
「わっ!水、冷た〜い。生き返るわ〜」
内心、こんな大自然の中で、水着写真ってどうなのよ?と思いながらも、岩に着いた。
カメラが水面ギリギリから狙う。
と、少し上流に、趣のある吊り橋が見えた。
「もう少し岩に登って見て」
「は〜い」
「いいねぇ、可愛いよ〜もう少しだけ上へ」
カシャ、カシャ、カシャ!
シャッター音に合わせて、ポーズをとる。
既に岩の頂上に手が届くところまで来ていた。
「腰掛けてみて」
「は〜い」
とは言ったものの…高さ3メートルほどの岩でも、少し恐い。
頂きに手を掛けて登ると岩の向こうが見えた。
そこには、美しいグリーンブルーの淵が広がっていた。
と、何気に岩の裏側を除き込んだ…
(えっ?)
瞬間、背筋に冷たいものが走る「ゾゾっ」
「キャ…キャーッ❗️」
「バシャン!」
思わず浅い川面に滑り落ちる。
「だ!大丈夫か❓どうした⁉️」
慌てて二人が走り寄る。
「あ…ひ…ひ…ひと…」
恐怖に震えて声が出ない。
カメラマンが岩の裏側へ周る。
「…うわっ…そんな!」
岩に二人の人間が引っかかってていた。
その声に、もう一人も岩を周って来る。
「ま、マジかよ…誰か呼ばなきゃ」
カメラマンがゆっくり近づく。
二人は岩を背にして座った姿勢で、女性と思われる方の腕が、もう一人を抱きしめていた。
「…だ、大丈夫ですか?」
ムダとは思いつつも、声をかけ、肩に触れた。
「うわっ❗️」
僅かに女の頭が動き、驚いて尻餅をつく。
「お…おいっ!い、生きてるぞ、生きてる!」
「ほ、本当か?なら、た…助けないと!」
二人は、助けようと手をかけた。
後ろからモデルも恐る恐る近づく。
と、その時、女が顔を上げた…
「うっ!…うわぁーッ⁉️」
「キャーッ⁉️」
静かな風景に、叫び声が響き渡った…
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