5.ブルー・アイ

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5.ブルー・アイ

帝都医科大学病院。 「その症状はいつ頃からですか?るみさん」 眼科の医師 立花が、診察しながら問う。 「確か…」 あの、不可解な連続自殺が始まった日。 想い出したくもない。 でも決して忘れられない日々。 「に…2週間くらい前から。最近は起こる頻度もだんだん増えていて…私、怖いんです」 自分が自分なのかさえ分からなくなる。 見られている様で、見てる様にも思える。 あのおぞましい感覚が甦える。 「ん〜。診たところでは、充血の痕跡や兆候も無いから、神経的なものかも知れないね」 決していい加減な診察ではない。 歴とした帝都大病院の医師である。 「で、でも、確かに何かがおかしいんです!なんとかしてください。助けてください❗️」 思わず張り上げた声に、丁度通りかかった初老の男が立ち止まった。 「立花先生、何事ですか?」 「い、院長!💦別に大した事では…」 帝都大学病院 院長 大山 隆法(りゅうほう)。 各界にも広い人脈を持つ権力者。 かつては、「神の目」とまで言われ、誰もがサジを投げる患者の命を、数えきれぬ程救ってきた医学会のレジェンドである。 「目の奥の痛みに、違和感と脱力感。17歳でなければ、加齢による病名は色々あるが…ふむ」 カルテを見て考え込む大山。 (っ!)フッと目の奥底に痛みが生まれた。 (くる…ダメ…やめて!) うつむいて懸命に耐える。 声は出せなかった。 少しずつ。 自分が変わっていくのを感じた。 悔恨・悲哀・憎悪。 抗うことは許されなかった。 この時。 彼女の異変に気づいた者はまだいない。 だが、すでにさっきまでの怯えた少女…ではなかった。 突然の院長に、慌てる立花。 「さ、さぁ、るみさん。一応くすり…を…」 言いかけた立花が、 ソレ に気付いた。 つま先から背筋を通り抜け、髪の先まで凍りつく様な寒気。 (どけ) 頭の中に囁かれた声に従い、ふらっと立ち上がり、繋がった隣の部屋へと歩き出す。 「お…おいっ、立花先生!どうした、どこへ行くんだ」 大山の声に、振り向く気配すらない。 「全く、どうしたんだか。ごめんなさいね、え〜と、るみさん。どれどれ、少し診てあげよう」 椅子に座り、うつむいた彼女を見た途端。 「うっ…」思わず声が漏れる。 重たく冷たい空気が、大山にのしかかる。 まだ明るいはずの空間が、みるみる暗闇へと変わってゆく。 「な…なんだ、これは…」 冷たい空間の中で、全身の汗腺から汗が流れ落ちる。 「…ミツケタ…」 少女とは思えないしゃがれた声。 微動だにできない大山。 その心の中に、封じ込めていた遠い記憶が、ポツリ、ポツリと蘇って来るのを感じた。 「る…る…みさん…」 どうにか出した声に、彼女の体が震える。 「ク…ククッ…ククククッ」低い笑い声。 「るみ…さ…」 「チガウッ!…ワタシハ、タエコッ❗️」 「ッバーンッ💥」 周りのありとあらゆるものが粉々になって砕け散った。 「ぅッ…ヴぁァあーッ⁉️」 大山の目の前に… 恨みに燃え上がる、真っ赤な瞳が光っていた。
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