結婚の条件は「ちはやぶる」

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2  急に何を言い出すのだろう? 俺はそう思い、怪訝な顔をした。「ちはやぶる」とは受験などで古文を学んだ人間にとっては常識的な知識だ。 『ちはやぶる 神代もきかず 竜田川 からくれなゐに 水くくるとは』  在原業平が詠んだとされる有名な歌で百人一首の一つ。意味は確か「竜田川の一面に紅葉が浮き、真紅に水を染めているとは神代(神々の時代)でさえも聞いたことが無い」だった……と古文の授業で習ったような記憶がある。  確かに美しい歌だが、何故、彼女はこの歌の話を持ち出したのだろうか?  すると彼女はニコニコしながら、俺に問いを投げかけた。 「あのね。この歌について、どう思っているかを聞きたいの。『ちはやぶる』。貴方はどう思う?」 「どう思うって……」  あまりにも漠然とした質問に俺は戸惑ってしまった。普通に考えたら、「綺麗な歌だよね。美しい紅葉の様子がありありと浮かぶようで……」みたいな台詞を言うべきなのだろう。ムードを盛り上げる為には情景の美しさについて言及するべきなのかもしれない。  だが、待てよ……。俺は頭の中で浮かんだ台詞を口に出そうとする前に、慌てて飲み込んだ。彼女はゼミの教授も一目置くレベルの才女。となると、情景の美しさを誉める台詞はありきたりでつまらないのかもしれない。もしかしたら、在原業平の背景とか、少し捻ったような感想が欲しいという可能性もある。    折角、彼女が投げかけてくれた話題だ。このチャンスは無駄にしたくない!俺は必死で脳をフル回転させた。  そういえば……。俺はふと気付く。確か、「ちはやぶる」にまつわる話は筈だ。あれは小学生の頃、祖父が俺に聞かせてくれた話だった。俺は昔のことを思い出した。  
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