結婚の条件は「ちはやぶる」

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4 「ちはやぶる……。どう思うか……だったよね?」  恐る恐る口を開く俺に、小浅さんはニコニコと微笑みながら頷く。俺は意を決して答えた。 「俺の爺ちゃんがさ。落語好きでね。古典落語をよく聞かせてくれたよ。特に『ちはやぶる』がお気に入りでさ。よく聞かせてもらったなぁ……」  小浅さんは「ふーん……」と呟く。少しではあるが、俺の話に興味を抱いているようだ。ここはチャンス! 一気にトークを盛り上げよう! 「『ちはやぶる 神代も聞かず 竜田川 からくれなゐに 水くくるとは』。本来は『竜田川一面に紅葉が浮かんでいて綺麗だなぁ』っていう業平の思いを詠んだ歌なんだよね。勿論、その解釈も良いけど、裏を返せばなんだよね。だから、俺は古典落語の方が好きだな。ご隠居の咄嗟の機転ていうかさ。即興であんな話を作れるのが凄いし、その即興で作った話もツッコミどころが多くて面白いんだ! 単なる平安時代の昔の歌が江戸時代に新しい話として生まれ変わったことに奥深さを感じるよ‼……っていうのが、俺の感想だけど」  言い切った。俺は彼女の表情を窺った。  途端に俺は戦慄した。  彼女は俺をギロリと睨み、はぁっと深く溜息を吐いた。
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