六月九日の花嫁

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重い瞼を一生懸命に持ち上げる。昨夜まで友人たちと思い出に花を咲かせていたせいか、のりで貼り付けたように瞼が引っ付き、起き上がれば体がミシミシ音を立てる。 ブーブーとスマホが連続して鳴り、クリアになっていない思考と視界の中で華子は手だけを動かし、ようやくスマホを手に取った。 「うーん……着信……? んあっ。牧場(まきば)からの……メッセージだあ……」 パカパカとあくびが出て、画面が滲む。表示されたのは幼馴染の牧場からの――、 「はよー」 『おはようー、じゃねーだろこの寝坊助! あんなに鬼電したのに出ねえとは……』 「知ってるー? 今は鬼電でも古いらしいよー」 『どうやら寝惚けていても減らず口は叩けるようだな馬鹿』 「馬鹿とは何さ! 牧場だって馬鹿でしょ、馬鹿!」 早朝に鼻から喧嘩とは幼馴染とはいつまで経っても変わらない。散々言い合ったら体力を消耗し、嫌でも目が覚めた。 『なあ、お前』 「ちょっと、流石にお前は無くない?」 『ちっ。……今日、ちゃんと覚えているよな?』 今日。そう言われ、華子はホーム画面に戻る。牧場との思い出ショットが設定されたホームを移動していけばカレンダーが出てくる。きちんと花丸スタンプが押してあった。 『待っているからな。必ず来いよ』 電話越しから弱々しい言葉がする。幼馴染の弱気モードもとい、新郎のありありなマリッジブルーを耳に挟みつつ、華子は大声で笑ってやった。 「昔から何度も約束しているじゃん。今日だって皆の前で堂々と誓ってあげるよ。あんたこそキス直前になって逃げたら地獄の果まで追いかけてやるからね」 冗談めいた会話を最後に電話を切った。窓の外では祖父がストレッチをしながら車を停めている。すぐにでも行かなくては。 六月九日。奥山華子の独身、十九歳最後の日。 「寂しいような気もするけど、幸せの方が大きいなあ」 運命の人かどうか分からず、憂鬱になった日が今では遠い昔なのに、昨日のことのように思い出せる。 「あーそっか。今日から私……牧場華子? きゃー!」 スマホの画面が暗くなるとにやけ過ぎてブサイクな自分が映る。笑うにもほどがあった。
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