宝石の恋

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「うそ、でしょう……?」 幼い頃から大好きなおにいさんのお嫁さんになれるって思ってたのに…… ところが、結納の席に現れたのは大好きなおにいさんとその弟。 わたしが結婚する相手は二卵性双子の弟の方だったなんて…… 無口で無愛想な弟の翡翠。 お父さんもお母さんも双子なだけに、わたしの大好きなおにいさんを弟の方だと思い込んでいたようで…… 「お父さん……わたし、け、結婚は」 ごめんなさい。 無理です。顔は似てるけど無理です。 無愛想でわたしを睨んだ弟、無理です! 頭を振った。 「そ、そうか……みずほが嫌なら仕方ないよな」 お父さんはわたしが席を外すと同時に追いかけてきて、わたしの顔色を見て違うと思ったのを気づいたようだった。 がっかりしたみたいだったけど、お断りするからと言ってくれた。 だけど。 その後ですぐお父さんに電話が掛かってきたその内容にわたしの足が止まった。 『社長、お嬢さんの縁談無事にまとまりましたか?藤原家からの資金援助は確実に受けられそうですか?』 え? 資金、援助? 「それは……その件は後で。私がなんとかするから大丈夫だ。だから、君も社員も落ち着いて」 『でも!!援助がなければ!!』 電話から聞こえてしまった声でわたしにもわかってしまった。 お父さんの事業がうまく行かず資金繰りに困ってるってことを。それを援助してくれると言ってるのがお相手の家だってことを。 わたしが断ったら、援助が受けられないってことを。 電話の内容には聞こえなかったふりをして振り向いた。 「お父さん、違うの。その、わたし嫌じゃないから……ただ恥ずかしくて」 「嫌じゃ、ないのか?」 「うん、わたしを助けてくれた人だもの。大好きだから」 勝手に勘違いしていたのはわたし。 家の事情も知って断れるはずない。 お父さんはほっとしたような複雑な表情を浮かべた。 席に戻るとおにいさんの顔を見る。 優しげな笑みを浮かべて、視線が合うと頷いてくれた。 弟の方はむすっとしたまま、お猪口を口元へと寄せてた。 お相手の方の兄でもいい。 片思いでもいい。そばにいられるのなら、縁談だって受ける。 そして、お父さんの会社も守る。 結納の品々が並び、目録が読み上げられる中、わたしは心を決めて顔を上げた。 「幾久しくお受けいたします」 わたしは、もう、逃げない。
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