宝石の恋

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藤原家の成り立ちや、どんな事業を手掛けているか。業績やこれからの方針について。 少しずつ学んでいく。 それと同時に、あまり料理をしたことのなかったわたしは出汁の取り方や調理の仕方を教わっていた。そして、掃除の仕方や洗濯も。 「そんなに根を詰めなくていいんだよ」 わたしがここにきてから二週間が経った。 相変わらず紅玉さんは優しい。 幼かったわたしが公園のブランコから落ちた時に手当てをしてくれた初恋の人。 わたしはずっと初恋の紅玉さんを見ていた。 「紅玉さまはいつも笑顔で優しくて本当に素敵なの。実はわたしも憧れてて」 そんな話をしてくれたのは、わたしの面倒を見てくれてる女性。若葉さん。 「それに比べて、翡翠さまは無愛想な上に口数も少なくて。双子だけど紅玉さまと性格は正反対なのよ」 翡翠さんはあまり好かれてはいないようだった。 「あ、翡翠さまの花嫁になられる方の前で、すみません」 「いえ……」 わたしもそう思った。 比べたりしたらいけないってわかってるのに無意識に比べてしまう。 わたしは翡翠さんのお嫁さんになるのに、紅玉さんのことを好きなのに、翡翠さんとの結婚を選んだ。 酷い裏切り…… その夜は眠れなかった。 眠れなくて夜中に部屋を出て、下駄を履いて庭を歩いた。 錦鯉の泳いでいる池まで来ると先客がいることに気づいた。 「……翡翠、さん?」 しゃがみながら振り返ったその手には何かが握られていた。 それは、服? 「……どうしたんだ。こんな時間に」 「わたし、眠れなくて庭に涼みに……」 ちらりと見えたのは見慣れた生地のような……どこかで 「そうか」 翡翠さんはそれを袂に仕舞った。 まずいところにきてしまったように思えて都合が悪い。 沈黙が落ちて居たたまれない。 「わたし……戻りますね」 来た道を戻ろうとして後ろから手首を引かれた。 「……何か変わったことないか?辛いこととか」 変わったこと?辛いこと? 「なければいいんだ。……引き留めて悪かったな」 翡翠さんが言ってることがよくわからなくて戸惑う。 手を離してくれた翡翠さんから母屋へと戻った。 翡翠さんは、こんな真夜中に庭で何をしていたんだろう? そう思った。
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