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それから、ひと月ほどした頃。
「ここでの暮らしに少しは慣れたかい?何か困ったことがあったら言ってほしいな。僕にできることならなんでもするよ」
紅玉さんが優しい眼差しで話しかけてくれた。
「紅玉さん、ありがとうございます。少しずつ慣れてきました。みんなにとても良くしてもらって、これ以上望んだらバチがあたるくらいです」
「そう。ならいいけど」
話しかけられただけで頬が熱くなる。
気遣ってくれてるんだと思ったら、落ち込んでいた気持ちが浮上した。
今朝、お気に入りの服が破れているのを見つけてがっかりしてしまったのだ。
どこかに引っ掻けてしまったのかもしれない。
それに……靴がみつからない。確かに昨日まではあったのに。
「ないなぁ。どこへ置いたのかなぁ」
あっ!
あった!なんでこんなところに?
部屋の前でわたしの探してた靴があった。
置いた覚えのない場所に揃えて置いてある。
なんでだろう?
だけど、どう考えてもわからなかった。
それからも、不思議なことはあった。
無くしたものがいつの間にか部屋の前に置いてあったり、服が綺麗になっていたりしたのだ。
「なんでかなあ?」
「さあ、わたしにもわかりません。ですが、なくしたものが見つかるのは嬉しいですね」
若葉さんは少しだけ微笑んだ。
そんなある日。
若葉さんが指にケガをしたのか、絆創膏を巻いているのに気づいた。
それも最近、増えているような……
「若葉さん、その指ケガをしたの?」
「え、これは、その……包丁で少し」
若葉さんがそっと指先を隠した。
あ、そうか。炊事は苦手って言ってたっけ。
「わたしもまだ包丁の扱いには慣れてなくて」
わたしのそばにいてくれる若葉さんも、優しくしてくれるみんなもわたしは大好きだった。
その日の夜。
かたん、音がしてわたしは夜更けに目を覚ました。
部屋の前に誰かがいる気配がする。
ほんの僅かな気配に、羽織を肩にかけ足音を忍ばせて障子を開けた。
あれ、誰もいない?
視線を下にして、白いハンカチが落ちているのに気づいた。そのハンカチを拾い上げるとなくしたとばかり思ってた髪飾りが包まれていた。
落とした髪飾りを、誰かが届けてくれたの?
いったい誰が?
最近こうして物がなくなる度に部屋の前に置いてある。
誰が置いてるの?どうして?
知りたかった。
姿を現さずにわたしのなくしたものを届けてくれる。
なぜ?どうして?
あなたは誰なの!?
わたしは咄嗟に裸足で追いかけた。
気配を辿って、廊下を渡っていくその後ろ姿を捕まえた。
え!?
うそ……
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