宝石の恋

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広い背中。 白い夜着に羽織を掛けた人。 無愛想で無口で何を考えてるのかよくわからない人。 顔はとても綺麗で…… 「……なんだ?」 振り向いた冷たい声に一瞬で凍りついた。 知りたい一心で追いかけてきたけど、違ったのかもしれない。 「わたしの部屋の前に……今、これを」 置いたのは、翡翠さん? ハンカチに包まれた髪飾りを見せた。それ以上声が出ない。 心臓がバクバクして、でも、もしかしたらと思う。 「俺じゃ、ない。……人違いだ。俺はただ」 ただ?なに? 翡翠さんはそれ以上何も言わなかった。 なんて言おうとしたんだろう? 「手を、」 え? あっ!思いっきり羽織の袖を握ってた。 慌てて離すと少しだけ顔を赤くしてたと思ったのは気のせい? 「……最近、困ったことはないか?」 ポツリと呟いた。 以前にもそう聞いてきた翡翠さん。 わたしのことを心配してくれてるんだってわかった。 無愛想で無口で冷たい人。嫌な人かもしれないなんて思ってたけど違う。 翡翠さんは冷たいわけじゃない。口下手なだけなのかもしれない。 「辛いこと、ないか?」 本当に心配してるんだ。 そう思ったら体から力が抜けた。 自然に口元が緩んで、翡翠さんに心配してくれてありがとうって言えた。 一瞬、息を飲んだ目の前の翡翠さん。 「……ないなら、いい」 部屋の前にいたのは、確かに翡翠さんだ。 確信した。 なんでそれを隠すのかはわからないけれど。 翡翠さんは、そのまま背を向けて歩いて行き、残されたわたしはその後ろ姿を見送った。 冷たいだけだと思っていた翡翠さんがそうではなかったと知って、わたしを気遣う気持ちが心に温かく染みた───
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