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※※※
「痛っ!!」
部屋の前に置かれていた手紙の宛名を見て、封を開けた瞬間、指先に鋭い痛みが走って、持っていた手紙取り落とした。
指先から血が滴り落ちる。
恐る恐る手紙を拾い上げると、剃刀の刃が仕掛けられていた。
剃刀の刃……?どうして?
こんなことは今までなかった。
「早く手当てを!」
若葉さんがすぐに救急箱を持ってきてくれた。
幸いにも傷は深くなくて、消毒して絆創膏を貼った。
落ち着いてみると、これはわたしへの嫌がらせだってことに気づいた。
そういえば、物がなくなってたりしたのもそうなのかもしれない。
もしかして、翡翠さんはそれに気づいていたの?
だから心配してた……?
無くなったものを探しだしてわたしに戻してくれてたの?
食事に虫が入ってて困った時だって、すぐに気づいて取り替えてくれた。
それはわたしの食事に気を配ってたからだよね。わたしが知らないところで、たくさんの嫌がらせをされてたのを守ってくれてたのかもしれない。
「今度は、靴に画ビョウか……まったく」
それからしばらくして。
深夜、翡翠さんがわたしの靴から画ビョウを抜き取っていた。
わたしの部屋の前に置いてある不吉な封筒も回収していたのも翡翠さん。
わたしに出される食事に混ぜ物があるのを、取り替えてくれてたのも翡翠さん。
すべてわたしに気づかれないように、嫌がらせをされたのを排除してくれてたことに気づいた。
わたしが傷つかないように、さりげなく守ってくれていたんだ。
そして、わたしを守ってくれてたのは翡翠さんだけじゃなかった。
若葉さんの手指の傷も、わたしの服に針が刺さっていたりしたものから守ってくれていたのだった。
何にも気づかないで過ごしてたわたし。
ううん、気づこうともしなかった。
「ごめんなさい……わたし」
わたしの部屋の前になくしたものを何も言わずに戻してくれた、その背中を向けている翡翠さんの袖をそっと握った。
何も見えてなかった。
翡翠さんの不器用な優しさも、気遣いも。
「……すまない。こうすることでしか守れなくて」
紅玉さんのそばにいるためにだけ、翡翠さんを踏み台にしたわたしに気づいていただろうに守ってくれていた。
誰より優しい翡翠さんだってことに今気づいた。
「みずほを傷つけたくなかったんだ」
小さなため息を吐いた翡翠さんの背中は、ただただわたしの溢した涙を吸い取ってくれた。
「ありがとう……翡翠さん」
不器用で優しい翡翠さんにこれからは誠実でありたい。
そう思った───
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