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六話 強奪
「誰かっ!生きている者は状況を知らせろっ!」
無線機からは悲鳴と怒号、そして運が悪かったと嘆く声が飛び出す。状況を把握している者が居ない証拠だ。
こんなことはあっていいのか。いやあっていいのかもしれない。そもそも能力持ちや一流魔術士が幅を利かせているこの時代、こんなことはいつ起きてもおかしくなかったな。
と男は、絶望一色に染まった思考で今出来る最善の指令を紡ぎだす。
「総員一時撤退せよ!ここは破棄する!とりあえず命あるものは撤退せよ!」
そう男は無線機に放つと、自分は乗り込んできた侵入者に向けて閃光手榴弾を投げる。
「三秒後に起爆する!どさくさ紛れて第三通路から撤退しろっ!」
無線機からは銃声や発破音に紛れた(了解…)と掠れた多数の声が聞こえる。
瞬間的に倉庫に閃光と爆音が満ちる。
そして───
戦闘は一方的な虐殺で終了した。
虐殺が戦闘に入るならば、それは凄まじい戦闘であった。
コンクリートでできた床は砕かれ亀裂が入っており、鋼鉄製のコンテナは酷くひしゃげ、出入口と思わしき場所についていた扉は、片方は吹き飛ばされもう片方はその侵入者の盾となっていた。そして倉庫内の至る所に血溜まりができ、粉砕された銃身が転がっていた。
その倉庫の管理者はあまりの惨憺たる光景に愕然とし、契約者は膝が起たなくなり倉庫の入り口で動けなくなっていた。
その倉庫に納められていたのは、神殺しの神器(神代兵器の略)ロンギヌスの槍。
そうなれば、どこの組織の仕業かは明白であった。しかし、彼らに報復する余裕はなかったし、それを実行する勇気もなかった。言うなれば相手は高性能爆薬を所持しており、それが自分の体に巻かれ既に相手は待避しているという状態だ。
そんな状況で反撃を考えるのは、能力者や魔術士である。
一般人ではどうしようもなく、戦える状況でないことを把握し、相手の思い1つで粉々になってしまう我が身を可哀想に思うだけであろう。
ただ自分の側には通信機が落ちており何時でも助けが呼べる状況ではあるが、そんな状況では呼んだところでどうなるんだか、、と考えるだけであろう。
彼らは正にそのような状況であった。
彼らにしたら、何故このような珍しいが価値が高いとは言い難いものが狙われたのかは理解し難かった。ただ、噂で"あること"が起こりそれのせいではないか?と囁かれていたが、皆あることとは何かそして、その噂は何時流布され広まっていったのかがわからなかった。
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