🦔❤️🐹ハリネズミさんとハムスターさん

弾けるボタン

　仕事がひと段落し、何の気なしにストレッチをするため、後ろに腕を伸ばす。
　その瞬間、プチン、と何かがはじける音がした。

　緩んだ胸元を確認し、はじけ飛んだのはどうやらボタンのようだ。

　え、嘘でしょ……。

　普段は着ない柄シャツは、デザインが気に入って先日購入した代物だ。

　安物だったらボタンの縫い付けも甘いからしょうがないと思うのに、結構しっかりした造りだったのに。

　フリーサイズなはずなのに、心なしか胸部分きついなとは思っていたのだ。

　気のせいにしたかったのに。
　ちょっと動きづらいとは思ってたけどさ。

　そういえば最近、ブラがきつくなってきた気がする。
　体重は変わらないのに。おかしいだろ。

　ボタンが胸のせいではじけ飛んだから皆に探して欲しいとはさすがに言えず、こっそりとペンを落としたふりをしてフロアに這いつくばる。

　クッソ、見つからない。

　ボタン一つなくなったところで、タグに予備のがついている。
　最悪あとで縫い付ければいいのだけど。

「毛利(もうり)先輩、これですか？」

　ふわっといい匂いがした。
　這いつくばっていた私の眼の前に、すらりとした足元がみえる。
　顔を上げると、にこっと、男だったら一発で惚れこんでしまいそうなほどの、眩いばかりの美人の笑顔が映り込んだ。

「ああ、ありがと、針山(はりやま)」

　差し出された細い指先にのっている、見覚えのあるボタンを乱暴に奪い取る。

　とりあえず終業時間まであと少しだ。
　さっさと帰ろう。
　多少胸元が開いてしまっていても、言わなければ気づかれないだろう。

　ただ一人を除いては……。

「針山、どこ見てるんだ？」
「どこって、先輩の大きなお胸ですかね。いい眺めです。ありがとうございます！」

　背の低い私と、モデル並みに背の高い針山とでは、ちょうど視線が覗く位置にあるようだ。

「あの、谷間に指入れていいですか？」
「なんでだよっ！」

　女同士なら冗談半分で済まされるのだが、針山は別だ。

　どうも私をイヤらしい眼で見ているのだ。