一人な私達の探し物

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 男の子と出会った次の日。学校を後にしたあたしの足は、自然と昨日の公園に向いていた。  やっぱり、あの子の事が気になったから。  今日も探すって言っていたけど、公園にいるかなあ? もしいたら何て声をかけようか?  そんなことを考えているうちに公園に着いて、昨日男の子がいた草むらを見たけど、今は誰もいない。  今日も探すって言っていたけど、気が変わったのかなあ? それとも、まだ来ていないだけ?  だけどキョロキョロと辺りを見渡してみると、すべり台の裏側に動く影が見えた。あれは、昨日のあの子だ。  水色のシャツにベージュ色のズボン。昨日と全く同じ服装、で男の子はそこにいた。  少し近づいてみると、男の子は昨日と同じように地面にしゃがんで、何かを探している様子。  さらに近づいてみると、向こうもこっちに気づいて立ち上がる。 「今日も来たんだ」 「来ちゃいけなかった?」 「ううん、そんなこと無いけど」  だったら良いよね。  そういえば今朝家を出てから、初めてしゃべった気がする。  学校では、話す相手がいなかったからなあ。 「あっちの草むらは、もう探さなくていいの?」 「うん。向こうは探し終わったから、今はこっちを見てる」  何を探しているのかは知らないけど、この様子だとどこら辺にあるのか見当がついていない様子。  そんなことを考えていると、不意に男の子が聞いてくる。 「そう言えば君、名前何て言うの?」 「私?私は間宮(まみや)宮子(みやこ)。宮崎の『宮』に子供の『子』って書いて宮子。そっちは?」 「僕は達希(たつき)。達人の『達』に希望の『希』と書いて達希。っと、僕の名前のことはいいや。宮子、君はこんな所に来てて良いの? 友達と遊んだりはしないの?」  たぶん深い意味はなく、ちょっと不思議に思って聞いだけなんだろうけど。触れてほしくない所に触れられた気がした。 「……いないよ、友達なんて」 「えっ?」 「仲の良かった友達は、みんな遠くにいるもの」 「それは……ごめん。変なこと聞いて」  達希くんは昨日と同じように、オロオロとした感じになる。けど、あたしこそごめん。つい嫌な気持ちになって、八つ当たりしたかも。  ちゃんと謝ろうと思ったその時、達希君が呟いた。 「じゃあ、僕と同じか?」 「同じって、何が?」 「一人だってこと。僕も一人なんだよ。今日も明日も一人。一人でずっと、探し物をしてる」  そうだったんだ。いったいどれだけの間、達希君は一人でいるのだろう。さっきは嫌な気持ちになっちゃってたけど、あたしこそ無神経な態度をとっていたんじゃないかな。そう心配していると。 「なぞなぞです。今僕は、何回『一人』って言ったでしょうか?」 「へっ?」 「……あまり深くは考えないで。ただの冗談だから」  恥ずかしそうに目を逸らされた。  あまりにいきなりで、何でこんな事を言い出したのか分からなかっただけど、私が気にしている事を察して空気を軽くしようとしているのだと気づくと、途端にぷっと笑いが漏れた。 「あはは、何言ってるの?」  真剣な顔でそんな事を聞いてきたものだから、ついおかしくなる。  そして自分でいっておきながら、達希君はまだ恥ずかしがっている様子。きっと本当は、冗談を言ったりふざけたりするのが苦手なのだと思う。それでも私に悲しい顔をさせない為にあんな冗談を言ってくれたのかと思うと何だか嬉しくて。あたしは声を上げて笑った。  そうして笑い終えた後、今度はあたしが質問してみる。 「ねえ、達希君って何年生?」 「四年生」 「じゃあ、あたしと同じだ。何組?」 「四組」 「え、四組?」  おかしいな。私も4組なのに、達希君を見た覚えが無い。いくら友達がいないからって、同じクラスにどんな子がいるかくらいは分かってるのに。  だけどすぐに気づいた。同じ四年四組でも、同じ学校とは限らないって。  この街には、いくつかの小学校が存在している。  田舎育ちのあたしにとっては、近くに小学校がいくつもあるなんて感覚が無かったから。達希君が別の学校の子だなんて考えてもみなかった。  どこの学校か聞いてみようかとも思ったけど、止めておいた。  まだ街に馴染みきってないのに、聞いたってどうせピンとはこないだろうし。  かわりに、別の質問をしてみる。 「ねえ、達希君の探してる物って、いったい何なの?」  昨日からずっと気になっていた。こんなに熱心になって探している大切な物って、いったい何なのだろう?  達希君はちょっと躊躇ったみたいだったけど、やがてポツリと呟いた。 「……指輪」 「指輪?」 「そう。緑色の宝石がついた、キラキラした指輪なんだ」  宝石がついてるの? それって田舎いた時駄菓子屋で見た、100円くらいのオモチャの指輪のようなものとは違うよね。アレにも緑色の宝石がついていたけど、プラスチックだったし。 「それって、本物の指輪なの? 大人がつけているような」 「そうだよ。大事にしていたのに、今は手元に無いんだ。だけど、絶対に見つけないと」 「そっかー。本物の指輪を無くしちゃったんだね。それじゃあ確かにしっかり探さなくちゃだね」  どうしてそんな大事な物を無くしちゃったのかは、聞かない方がいいかも。もしかしたら、お母さんの指輪をこっそり持ち出して、それでなくしちゃったのかもしれないけど。そんな失敗談は話したくはないだろう。  すると達希君は不思議そうな顔であたしを見る。 「宮子は笑わないの?」 「笑うって、何を?」 「男が指輪なんて大事にしてるなんておかしいから。皆から変だって笑われた」 「何それ? 良いじゃない、男の子が指輪を持ってても。人が大事にしている物を笑うだなんて、そっちの方がよっぽどバカだよ」  大事な物をバカにされる辛さはよくわかる。私も大好きな歌を、変だって笑われたから。  何を好きで何を大事にしてたって、恥ずかしい事なんて無いのにね。
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