一人な私達の探し物

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 午後6時を回った頃。家に帰っていた私は、部屋でマンガを読んでいた。  結局今日も、指輪は見つからなかった。  朝から探して、お昼には一旦家に戻って。午後からまた合流して探したけど、収穫は何も無し。  無理もないか。元々どこにあるのかもわからないんだもの。  もしかしたらこのままいくら探しても見つからないんじゃないかって気もする。もちろんこんな事、思っていても達希君には言えないけど。  けどもし、指輪が見つかったら。その時は達希君と会う理由は無くなっちゃうのかなあ。だとしたら……嫌だなあ。  一瞬、このまま見つからなければ良いという考えが頭に浮かび、すぐさまそれを打ち消す。  何を考えてるの? 達希君の大切な指輪なんだよ。見つからなければ良いなんて思っちゃダメだよ。  大丈夫。指輪が見つかったとしても、きっと達希君とは仲良くやっていける。そう自分に言い聞かせる。  けど、やっぱりちょっと不安。達希君は、あたしの事をどう思ってくれているんだろう?  一人で悶々と悩んでいると……。 「宮子、宮子!」 「あ、ママ」  いきなり部屋のドアが開いたかと思うと、ママが顔を出す。  そっか、今日は日曜だから、ママも家にいたんだっけ。普段家では一人でいることがほとんどだから、つい忘れちゃってた。 「ようやく気づいた。いくら呼んでも反応が無いんだもの。そんなにマンガが面白い?」 「ごめんなさい」  広げていたマンガを閉じる。本当はマンガの内容なんて、頭に入って無かったんだけどね。 「まあいいわ。それより、あんたに電話よ。ミサちゃんから」 「ミサちゃん!」  とたんに明るい声を出す。町にいた頃、最も仲が良かった友達のミサちゃん。  引っ越してからもたまにこうして電話をくれる、優しい女の子だ。  ママから電話の子機を受け取って、元気よく話しかける。 「もしもし、ミサちゃん?」 『宮子久しぶりー、元気にしてたー?』 「元気だよ。今日はどうしたの?」 『宮子の様子が気になってね。前に電話した時は元気無さそうだったから。最近はどう?楽しくやれてる?』 「うん、毎日楽しいよ」  実は前に電話で話した時も、楽しいって答えてはいたのだけど。どうやらこの様子だと、ミサちゃんはあたしの嘘に気づいていたらしい。  本当は友達がいなくて楽しくなんてなかったのに、心配かけたくなくてついた嘘。けど、今は本当に楽しいよ。 『お、今日は本当っぽいね。何か良いことでもあったのかな?』 「ちょっとね。実は音楽の趣味をわかってくれる子がいて。今日もその子に会ったんだけど、一緒に歌を聞いたの」 『宮子の好きな歌というと、懐メロだね。私も久しぶりに聴きたいわー。でも良かったじゃない、友達ができて』 「友達……」  言われて初めて気がついた。達希君とは友達……なのかなあ?  結構長い間一緒に探し物をしているけど、これって友達? 友達、だったらいいなあ。 『ねえ、その子ってどんな子なの?』 「達希君って言うの。同じ四年生で、別の学校の子なんだけどね」 『え、もしかして男の子なの?』 「そうだけど」  瞬間、ミサちゃんの空気が変わるのを感じた。電話越しでも感じた。子機からは何やらご機嫌そうな、ミサちゃんの声が聞こえてくる。 『そっかー、男の子かー、なるほどねー。遠くに行っちゃったと思ってたら、いつの間にか大人になって』 「大人? 待って、何を言ってるの?」 『隠さなくていいよー。好きなんでしょ、その達希君って子のこと』 「違っ……」  違うって言おうとしたけど、うまく声が出なかった。  好きって、私が? 達希君を?  途端に全身がカッと熱くなって、心臓がバクバクしてくる。 「何言ってるの。そんなんじゃないってば」 『そうかなあ? じゃあその達希君と一緒にいる時、どんな気分だった?』 「どんなって。話していると楽しいし、一緒に音楽を聴いてくれて嬉しかったし。でもなぜか時々胸の奥がモヤモヤしたり、ドキドキして……」 『それ絶対恋だって。初恋! おばさーん、今日の晩御飯はお赤飯に……』 「ちょっと、止めてよ」  慌ててスピーカー部分を手で塞ぐ。幸いお母さんには聞こえていなかったみたいだけど、恥ずかしすぎるよ。達希君とはそんなんじゃないのに。 『よーし、それじゃあ宮子の恋がうまくいくよう、うちの神社でお参りしておくから』  ミサちゃんのお家は神社。よく境内で遊んだり、願い事があればお祈りしたりしていた。けど、今回はご利益あるのかなあ?本当に恋なのかどうかも分からないのに。 「ミサちゃん、応援してくれるのは嬉しいけど、まだ好きだって決まったわけじゃないし」 『自分でもよく分かってないんだね。でも分からないってことは、もう好きだって事だよ。マンガに書いてあったもん』  ダメだ。おませで一度信じたことは決して曲げようとしないミサちゃんには、何を言っても聞いてくれそうにない。  けど、不思議とそんなに悪い気はしない。勘違いとはいえ、今までしたことがなかった恋バナができたからかなあ?  その後ミサちゃんは、達希君とどこで知り合ったのか、普段何をして遊んでいるのかを、根掘り葉掘り聞いてきた。  達希君と会った時にやることと言えば、ほとんど指輪を探してばかり。我ながら地味なことをしているとは思うけど、ミサちゃんは笑ったりすること無く、あたしの話を熱心に聞いてくれた。 『なるほど、面白そうな子だね。今度そっちに行くことがあったら、その時は紹介してくれる?』 「もちろん。ミサちゃんもきっと仲良くなれると思うよ」 『ありがとう。早く会いたいなあ、達希君。あ、安心して。達希君は宮子のお気に入りだってわかってるから、ちょっかいかけたりしないから』 「ミサちゃんっ!」  思わず名前を叫んで、そして笑った。  久しぶりにミサちゃんと話したけど、町にいた時と変わらない、明るいミサちゃんだった。  あたしはこっちに来てからクラスに馴染めていない。学校ではいつも一人。だけどそれでも、こんな風に電話を掛けてきてくれる友達がいる。  その事がとても嬉しくて。お母さんが晩御飯を用意するまでの間、あたしはずっとミサちゃんと話していたのだった。
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