0人が本棚に入れています
本棚に追加
6月が終わって、7月。今日学校では全校集会があってる。
体育館に集められたはいいけど、今朝から降っている雨のせいかどうにも蒸し暑い。
そんなムシムシした空気を感じる中、ステージの上では校長先生が喋っていた。
「もうすぐ皆さんが待ちに待った夏休みがやって来ます」
どこの学校の先生も言うことは変わらない。前にいた学校でも校長先生が、似たようなことを言っていたっけ。
そんな何度も聞いたような話をまた聞くのは、正直退屈。聞こえてくる声を右から左に聞き流しながら、あたしは達希君の事を考えていた。
実は最近、達希君と会う機会が減っているの。
原因は雨のせい。実は指輪を探し始めた頃、あたしたちはこんな決まりを作っていた。雨の日は指輪探しはお休み、ってね。
探しにくいし、雨にうたれて風邪でも引いたら大変だからね。
けど梅雨に入ってからは雨ばっかり。達希君とはあんまり会えなくて寂しいよ。
あーあ、あんな約束しなきゃよかった。
最近は学校が終わっても、真っ直ぐ家に帰ることがほとんどだ。
早く、早く達希君に会いたいなあ。
先生が喋っているのにこんな関係のないことばかり考えて、不真面目だとは思う。でもしょうがないじゃない。先生の話、つまらないんだもん。
「……昨年は皆も知っての通り、悲しい死亡事故が起きました」
校長先生が何か言っているけど、今年から転校してきたあたしには何の事だかわからない。
それよりも、今日これから雨がやむかの方が気になる。やんだら、達希君と会えるのに……。
「亡くなったサトヤマタツキ君のご冥福を祈ります」
……………えっ?
校長先生、今なんて言ったの?
サトヤマタツキ君? タツキ君って、あの達希君?
いや、そんなはずが無いか。だって先生、去年亡くなったって言ってたもん。同じ名前の、別の子かなあ?
「とても元気で明るい子でした。だけどよそ見をしながら道路に飛び出して、走ってきたトラックにはねられて帰らぬ人となったのです。まことに悲しい……」
校長先生の言っている去年無くなった子が、あたしの知っている達希君であるはずが無い。
だけどなぜだろう? 言い様の無い不安が、胸の奥に宿る。
みんなは亡くなったタツキ君に黙祷を捧げているけど、あたしはとてもそんな気になれなかった。
全校集会が終わって、生徒は各自教室に帰っていく。
みんな友達とお喋りをしながら歩いているけど、喋る相手がいないあたしは黙ったまま。校長先生の話が頭から離れないでいた。
どうしてこんなに気になっちゃうんだろう? たまたま同じ名前だったってだけで、あたしの知っている達希くんとは何の関係も無いって、分かっているのに。
達希君と会って話をすればハッキリするだろうけど、会えるのは早くても今日の放課後。もし雨がやまなければ明日以降になってしまう。
それまでの間ずっとモヤモヤしてるのは、気持ち悪いなあ。
そんなことを考えながらふと顔を上げると、前方にはクラスの女子が三人、お喋りしながら歩いている。
真ん中の子は転校してきたばかりの頃、あたしの喋り方がおかしいとか音楽の趣味が変だって言ってきた子だ。
名前は青葉ちゃん。正直、この子は苦手なんだけど、もしかしたら去年亡くなったっていう、タツキ君の事を知っているかも?
苦手な子ではある。けど実は、クラスで最も話しているのも青葉ちゃんなのだ。
あたしはいつも一人でいるけど、移動教室の時とか宿題を集める時とかに、青葉は声をかけてきてくれるんだよね。
気になることがあるなら、少しでも早くすっきりさせたい。
あたしは意を決して、青葉ちゃんに声をかけた。
最初のコメントを投稿しよう!