* 主役は二羽の鳥だった *

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* 主役は二羽の鳥だった *

***  我が家のリビングに物心付いた時から飾られている写真がある。  それは王冠とティアラを載せた二羽の白文鳥。  さながら真っ白なタキシードとウエディングドレスを着た鳥にも見える。  ……と、思ってはいたけれど。 「嘘でしょ……」  まさか本当に両親の結婚式の記念写真とは誰が予想しただろう。 「まさか! 第一、美鳥(みどり)にそんな嘘吐く必要性なんてないでしょ?」 「そりゃあ、そうかもしれないけどさ」  名前に『鳥』が入っていることもあり、昔から『鳥』に親近感を抱いていたし、人一倍『鳥』が好きだと自負していた。だけど、両親の結婚式の記念写真は『鳥』が代役を務めたと聞いて、二つ返事で納得するほどの愛は……育っていなかったらしく、地味にダメージを受けていた。  我が両親は身内の贔屓目抜きに人目を惹く美男美女。  娘の私と一緒の写真こそ撮ってくれるが、基本写真を避けている。  幼い頃は両親の写真嫌いが理解できなかったが、美男美女であるが故に巻き込まれる面倒を知った今は両親に対して同情心も生まれつつある。  とは言え、(恐らく)一生に一度の結婚式の記念写真を鳥に任せるなんて……。そんなことを思いつつ、二人に話を聞くことにする。 「そもそも何で文鳥にしたの? この文鳥、飼っていたとか?」 「ううん、お父さんもお母さんも鳥を飼ったことはないわよ。この写真の文鳥もレンタルだし」 「レ、レンタル……!? レンタルするほど、文鳥にこだわりがあったの?」  一世一代の挙式の大役をレンタル文鳥に託すなんて!!  そんな気持ちがどうやら表情に現れていたらしい。 「そんな固く考えなくても……。ウェディングドレスのレンタルだって人気なのに」 「そうだぞー! 美鳥!」  二人揃って、常識の行動と言わんばかりに言い切ってくる。  確かにウェディングドレスのレンタルを否定する気持ちも更々ないけど……。 「いや、まあ。そうかもしれないけど……。でも、うーん……」  二人の言い分を聞いていると、常識がゲシュタルト崩壊してしまいそうだ。  そんなことを思いつつ、更にツッコミを入れてみる。 「それでどうして文鳥にしたの?」 「そりゃあ、その文鳥が白だったからな」 「そうなのよね。ウェディングドレスとタキシードっぽくて」  あっけらかんと答える父と母。  呆気に取られたマヌケヅラをしている娘。  なかなかシュール且つカオスな状況で何とか声を絞り出す。 「え、嘘でしょ!? それだけの理由!?」 「むしろ十分じゃないか? 結婚式の大役を託すわけなんだし」 「いや、まあ……。それはそうなのかもしれないけど」 「だろ! というか、鳥なら何でも良かったんだよね」 「え? 鳥なら何でも?」 「そうそう。こだわりは『鳥』の方」  ふふふと屈託ない笑みを浮かべる母は心底可愛らしい。  そんな母を愛しむよう目配せする父との関係に対する不安は一切ない。  だから衝撃はあれど、落ち着いて二人の話を聞けているんだと思う。 「二羽の鳥が相応しかったからってことなんだけど」 「……二羽の鳥が相応しい?」 「そっ。(コ)ケッコー(ン)式ってね。流石にニワトリじゃあ芸がなさすぎるからねえ」 「えええええ。嘘でしょ、そんな理由で!?」  驚く私とは裏腹に、二人は見つめあって語り続ける。 「でも、二人揃ってコレだ!! って、思ったからねえ。人生の節目とも言える結婚式の写真へのスタンスがぴったり一致した瞬間は、そりゃあ二人とも鳥肌が立ったよね」 「ええ、鳥だけにね」  そう言って、二人は幸せそうに微笑んでいる。  リビングの白文鳥が人生の節目のスタンスがぴったり一致した証なら、両親の愛をたっぷり注がれる私『美鳥』もまた二人のスタンスがぴったり揃った証なのかもしれない。そんなふうに思考を切り替えるなら、母の寒いギャグさえ温かな家庭の象徴のような気がしてきた。 【Fin.】
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