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第10話(最終話)
「悪い子だから…僕は美味しくないの?」
僕は祖母の言葉にショックを受けつつも聞き返す。怪物に食べられたくなんかない、でもマズイと言われたのはショックだったからだ。
「拓海は誰かから酷く恨まれているかい?」
祖母に質問され、僕は「ううん」と首を横に振る。
「罪を犯して人から恨まれている人間の肉はね、怪物にとって燻製肉のようなかぐわしい香りのする御馳走だそうだよ。昨年もあの井戸に村人が落ちたことがあったが無事だった、怪物は現れすらしなかったのさ」
「なんで!? 井戸に落ちたら…みんな消えちゃうんじゃないの?」
祖母の話を聞いても僕にはまだ怪物への恐怖が拭えなくて、思わず祖母に聞き返す。
「井戸の水の底に棲むアレは恐ろしい怪物の姿をしているが、闇雲に人の命を奪うことはせん。罪のない人間は食べられたりしないのさ、だからお前の父親が死んだのは拓海のせいじゃないんだよ」
祖母は諭すように、僕にそう教えてくれた。
「怖いけど…善悪が分かる不思議な井戸なんだね」
「そうさ、だからこそわしらは、あの井戸に棲む『罪裁きの主』様を大昔から守り続けているのさ」
そう言うとおばあちゃんは、僕の肩にゆっくりと手を置いた。
「そうか僕、美味しくなくてよかったんだね! おばあちゃん」
僕はようやくホッとして安堵の溜息をつく。
「拓海は悪い子なんかじゃないよ。もし罪があると誰かがお前を責めたら、この婆が代わりに食べられてやるから心配せんでいい」
「おばあちゃんがいなくなったら嫌だよ! 僕、ママの次におばあちゃんが大好きだよ」
そう言って抱き着くと祖母はとても愛おしそうな笑顔になり、「安心しておやすみ」と僕の背中をトントンと優しく撫でてくれた。
東京でのパパとの暮らしは怖くて痛かった…。田舎に来てからは、井戸の底の怪物が僕を殺しに来るんじゃないかと…夜眠るのが怖かった。
でも、もう怖くない
「おやすみなさい」
僕はこの晩、やっと心から安心しておやすみを言えた。
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