第3話

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第3話

「おっ、おやすみ…」  おやすみなさい、と言おうとしたが震えて声が出ない。    するとパパはドアのところまで速足で歩いてきて、「おやすみなさい(・・・)、だろ」と、拳で僕の腹を殴った。 「拓海には手を上げないで!」  ママは廊下に飛び出すと、僕を守るようにパパの前に立ちはだかる。 「警察なんかにチクって、俺に恥をかかせやがって!?」  勢いよく振り下ろされたパパの拳がママの頭に当たった。そして倒れたママは動かなくなってしまったのだ!?。 「ママ!? ママっ!」  僕は真っ青になってママに駆け寄る。ママが死んでしまったと思ったら、怒りで体がブルブルと震え涙が溢れてきた。  だがママは気を失っているだけで息はしていた。ホッとした僕は、ママがこれ以上殴られないようにママの上に覆いかぶさる。 「なんだその目は!? 邪魔だどけ!」    だが非力な僕はパパに蹴られ、簡単に壁まで吹っ飛んでしまった。  強く頭をぶつけたせいか視界が霞む。その時、意識が薄れかけた僕の脳裏にある光景が浮かんだ。  野原のような場所に、祖母とすごく幼い頃の僕が立っている。祖母の手は真っすぐに地面を指差し、こう言った。 「ここには人間には裁けない罪を喰らうモノが棲んでいるんだよ。でもこのことは村の外の人間には話してはいけないよ」  フラッシュバックのように浮かんだ記憶。それは幼い頃に行った田舎の祖母の村にある、ある場所(・・・・)だった。 『ああ、そうか。僕はとっくに完全犯罪の方法を知っていたんだ!?』  薄れかけた意識が戻り、僕の瞳にギラギラとした強さが宿る。    パパのことは怖い、でもそれ以上にママを失うのが一番怖い。僕はこの晩、パパに永遠におやすみ(・・・)してもらうことを決意した。 
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