第6話

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第6話

 僕は恐る恐るパパが視界から消えた場所まで一歩一歩近づく。すると視界の先に、野原の草むらの地面に埋まるように、大きな井戸がぽっかりと口を開けているのが見えた。  これが、おばあちゃんが話してくれた井戸!?  だが井戸の傍まで行くと、井戸の縁を掴んでいる右手が見え、僕はギクリとする。  パパは井戸の底には落ちていなかった!、きっと僕の誘導が下手で失敗したんだ…!?  僕は青ざめて井戸の中を覗き込んだ。すると、「拓海! 人を呼んできてくれ!」と叫ぶパパと目が合った。  だが僕は青ざめた顔でふるふると首を横に振る。 「早く人を呼んで来いって言ってんだろ、拓海!」  井戸の縁に片手でぶら下がった状態のパパが、苛立った様子で僕を睨みつける。  どうしよう怖い!? このままじゃパパが井戸から上がってきて、殴られちゃうよ… 『井戸の縁にかかった指を一本一本を剥がせば、今ならパパを深い井戸の底へ簡単に落とせるんじゃないか?』、僕の心に一瞬そんな黒い考えが浮かんだ。  でも、おばあちゃんは手を出しちゃダメだって言ってた…  僕は恐怖に震え涙目になりながら、黒い考えを打ち消すように頭を左右にブンブンと振る。 「何て役立たずな奴なんだ!?」     するとパパのもう片方の手が井戸の縁を掴んだ。そして井戸の縁を掴んだ力強い両腕が、今にも井戸から這い上がってこようとしたのだ。 「後で覚えてろよ!、ぶん殴ってや…」  だがその次の瞬間、悪態を最後まで言い終わらないうちに、パパの悲鳴が上がった。 「うわっ!? いぎゃあああっ!?」
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