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第8話
「パパはどうしたの?」
祖母の家に僕だけが来たのを見て、ママは不思議そうに聞いてきた。
「パパは…もういないんだ…」
「まさか機嫌を悪くして一人で帰っちゃったの?、大丈夫!? 殴られたりしなかった拓海?」
何から話していいか戸惑ってしまい…上手く説明ができないでいると。ママは心配そうに僕の体を抱き寄せた。
「あの男は死んだんじゃよ」
すると、居間で布団に横になっていた祖母がガバッと起き上がり、スタスタと玄関まで走ってきた。
「えっ!? お母さん、寝てなきゃだめじゃ…な…い?」
驚くママに、僕はパパがこの世からいなくなった経緯を告白した。僕の足らない説明を補足するように、おばあちゃんも一緒に事情を説明してくれた。
ママはかなり混乱していたが、おばあちゃんの余命が僅かなのは嘘だと謝ると、涙を流して喜んでくれた。
◇◇◇
翌日、僕とママと祖母は野原にある井戸の傍まで来た。ママが井戸が見たいと言ったからだ。
「人が落ちると危険なので蓋をしても、この井戸はなぜか翌朝には蓋が消えてしまうんだよ…」
そう言って井戸を指差す祖母。見ると井戸の上にはもう青々とした蔦が生い茂っている。
蔦に覆われた井戸の上面はとても自然で、一見すると野原にしか見えない。底には暗い闇がまるで獲物を求めるように、ぽっかりと口を開いているのに…。
「僕、ママの役に立てたかな?」
言葉少なに井戸をじっと見つめているママを見て、僕は心配になり思わず尋ねる。
「ママを助けてくれて、ありがとう拓海」
ママはそう言って涙ぐむと、僕を抱きよせ強く抱きしめてくれた。
そして、「今まで疎遠にしていてごめんなさい。助けてくれてありがとう…お母さん」とおばあちゃんに抱きついて、さらに泣いた。
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