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第9話
庭に用意したテーブルには畑で取れた夏野菜がたっぷりと並んでいる。
「拓海~! お昼できたわよ」
おばあちゃんがスイカを切り、ママが僕を手招きする。
夏休みの終わり、僕とママはおばあちゃんの家に泊まって過ごしていた。それはいつ振りかわからないほどの穏やかな生活だった。
◇◇◇
あの後、ママはおばあちゃんの勧めで警察に捜索願を出した。
「スマホが圏外な村になんか泊まれるか!? 実家にはお前達だけで行け!」、そう言うと主人は駅のほうに歩いて行ってしまったんです…。村の手前のバス停で別れた後、連絡が取れなくて心配で…」
祖母と口裏合わせはしたが、警察で事情を説明するママは緊張で顔が白い。
だが、濃い霧も出ていたので崖下への転落の可能性もあり、ということで村付近の山深い国道から捜索が開始されることに。
村にも警察が来たが、パパが村に来たという痕跡は見つからなかった。逆にパパが失踪した時間、ママは村にいたというアリバイが出来上がった。
最初こそママはあれこれ聞かれたが、その後の捜査でも事件性は低いと判断された。それがつい先日のことだ。
◇◇◇
全ては上手くいった、僕の完全犯罪は成功したのだ!
ところが僕はあの晩から暗い水の中に落ちて、頭からバリバリと怪物に食べられる夢を見るようになり、夜中に飛び起きるようになっていた…。
僕は井戸の底に怪物が棲んでいるんだと思った。だが夢の中の怪物は、井戸も怪物の体の一部で、逃げても逃げても井戸がどこまでも追ってくるのだ…。
夜中に起きている僕を見て、「眠れないのかい?」と祖母が心配そうに声をかける。
「…怖い夢をみたんだ」と僕が言うと、おばあちゃんは手ぬぐいで僕の額の汗を優しく拭ってくれた。
「おばあちゃん…。罪を犯した悪い子だから…僕も井戸に食べられちゃうのかな?」
そう涙目で訊ねると、「食べられたりしないから、安心おし」と、祖母が僕を強く抱きしめてくれた。
「それに拓海は美味しくないから、怪物も食べないじゃろ」
「えっ!?」
少し安心しかけた僕は、祖母の思いがけない言葉を聞いて衝撃を受けてしまう。
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