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…つい反射的に差し出してしまったけど、夏樹さんの心を操るとか命を奪うとかできないよね?
「死神」なんて物騒な綽名を聞いて不安になってきた。
…たとえできたとしても乗り気じゃないみたいだから多分大丈夫な筈…。
そんな失礼な私の内心を知ってか知らでか、私の携帯を受け取った「氷月さん」は
「ヤス、紙持ってきて。」
と指示を出してメッセージに目を通しだす。
「ヤスさん」が紙を持ってくると、携帯の画面に目を向けたままそれに何かを書きだす「氷月さん」。
覗いてみると例の誤爆したものを書き写して…いや、所々文字を飛ばしている…?
「こんな時間にごめん。
さっき話してた の件について。
あの後 かも考えてみたけど、やっぱり場所がおかしいと思う。
忘れない内に送っただけで、時間も時間だし、結構眠いから明日また三人で色々考えよう。
PS. の件はそんなに気負わないで。任せるって ってもまだ半年以上先の話だから。」
「こんなところかしら…。」
彼女はそう呟いて、そして空白部に文字を入れていく。
「あ。」
さっきまで何か考え込んでいた立花さんが声を上げる。
「こんな時間にごめん。
さっき話してた血痕の件について。
あの後何階かも考えてみたけど、やっぱり場所がおかしいと思う。
忘れない内に送っただけで、時間も時間だし、結構眠いから明日また三人で色々考えよう。
PS.指揮の件はそんなに気負わないで。任せるっていってもまだ半年以上先の話だから。」
「そっか、道理で所々文章がおかしいとおもった…。」
「…これはあくまで花見夏樹の職業が警察や軍の関係者であると仮定した上での仮説。「なんかいかも」については「か」が予測変換で入っただけかもしれないけれど…。」
その文章を見て、嘆息する立花さんと補足を入れる「氷月さん」。
「予測変換」と聞いて何が起きたのか解った。
「寝ぼけて色々間違ってて」…。
「色々」には「送信先」だけではなく「変換」も含まれていたという事か。
…勿論解ってる。
これはあくまでも私に都合のいい仮説。
現実にはそんな事はなくて夏樹さんは本当に結婚してしまうのかもしれない。
でも…
「…でも、この仮説が正解の可能性はある。」
私の心を読んだかのように「氷月さん」は続ける。
「「ちゃんと説明する」って書かれてるんでしょう?身の処し方を考えるのはそれからでも遅くないんじゃない?」
…勿論最悪の可能性も残ってはいる。
でも「本の虫」と称されている目の前のお姉さんが、わざわざ読書を中断して私に都合のいい可能性を示してくれた理由。
それは「最悪」ばかり考えていた私の背中を押す為だったような気がして。
「…ありがとうございました。」
既に読書に戻っていた「氷月さん」に頭を下げて
「泉さん達もありがとう。」
と他の三人にもお礼を言う。
「今度は事故らないようにね?」
「応援してるっす。」
等といった声に送られて事務所を後にする。
そして建物を出たところで、深呼吸を一つ。
最悪の場合への覚悟は決めた。
…いや、正確にはまだ決まってはいないけど、逃げるのは止めた。
不在着信の「花見夏樹」を選びコールする。
お仕事中ですぐには出ないかもしれないと思ってたけれど、意外とすぐに電話は繋がって。
「…冬花ちゃん?」
いつもより少し鼻声気味の声。
「お仕事中すみません。今朝の件なんですが…」
「…よかった。ずっと電話も返信もないから、呆れて見捨てられたのかと…。」
その声は途中からいつもからは想像できない涙声に変わっていて。
「…あの、もしかして夏樹さんって警察とかの関係のお仕事されてたりします?」
つい口を衝いたそんな疑問に対しての答えは。
「…あれ、私言ってたっけ…?」
という涙混じりの不思議そうな声だった。
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