15歳の冬

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屋上へ繋がる階段を一段ずつ登る。 人気もなく閑散とした踊り場には、私の足音だけが響いた。 コンクリートの独特な臭い。 無機質で冷たい手摺り。 無性に落ち着いている自分に驚く。 階段を登り切ると、目の前には扉が一つ。 全てを終わらせるための障害は、この扉一枚だけ。 しかし、その障害もノブを捻ればいとも簡単に開いてくれた。 学校の校舎と外界を隔てる扉を出て、一歩ずつ、ゆっくりと進む。 学校の屋上は、いつもより冷たい風が流れ、私の長い髪を揺らした。 落ちゆく夕焼けに染まる校庭には、生徒の姿はない。 屋上からの景色をひとしきり眺めると、そっとフェンスに手を置いた。 私の手が温かかったのか、刺すような冷たさが手のひらに伝わる。 ふと、自分が生きていることを実感した。 もう、そんなものに意味はないのに。 所々破けて汚れた制服。 落書きで汚れた上履き。 ガタガタに切られた前髪。 あの子たちに恨みはない。 全ては、私が人より醜く産まれただけ。 私が人より友達を作るのが下手だっただけ。 もう、涙は出ないの。 心もどこかに置き忘れてしまったみたい。 さっきまで刺さるように冷たかったフェンスも、肌を過ぎる風も、今は何も感じない。 この鼓動だって、あと一歩踏み出すだけで、紙風船のように簡単に破れてしまう。 私は、それだけの存在。 私が消えてしまえば、みんな喜ぶ。 私も辛いおもいをしなくてすむから。 落書きで酷く汚れた上履きを脱ぐと、擦り傷で出血した右手で、そっと揃えた。 靴下越しにコンクリートの硬さを感じた。 フェンスを跨ぐように乗り越える。 反対側に立ち、持ち替えたフェンスからは、また刺すような冷たさが手のひらに伝わった。 この期に及んで、私はまだ生を実感してしまうの。 もう、死んでいるのと同じなのに。 ふと、一筋の涙が頬を伝う。 お母さん、こんな娘でごめんなさい。 お父さん、いつも優しくしてくれてありがとう。 洋平、かっこ悪いお姉さんでごめんなさい。 早苗、一度でも友達になってくれてありがとう。 頬を伝う涙が、零れ落ちるその前に。 私は、固く握っていたフェンスを離し、オレンジ色の空へと一歩踏み出だした。 みんなの幸せを見守る天使になりたいと願いながら。
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