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屋上へ繋がる階段を一段ずつ登る。
人気もなく閑散とした踊り場には、私の足音だけが響いた。
コンクリートの独特な臭い。
無機質で冷たい手摺り。
無性に落ち着いている自分に驚く。
階段を登り切ると、目の前には扉が一つ。
全てを終わらせるための障害は、この扉一枚だけ。
しかし、その障害もノブを捻ればいとも簡単に開いてくれた。
学校の校舎と外界を隔てる扉を出て、一歩ずつ、ゆっくりと進む。
学校の屋上は、いつもより冷たい風が流れ、私の長い髪を揺らした。
落ちゆく夕焼けに染まる校庭には、生徒の姿はない。
屋上からの景色をひとしきり眺めると、そっとフェンスに手を置いた。
私の手が温かかったのか、刺すような冷たさが手のひらに伝わる。
ふと、自分が生きていることを実感した。
もう、そんなものに意味はないのに。
所々破けて汚れた制服。
落書きで汚れた上履き。
ガタガタに切られた前髪。
あの子たちに恨みはない。
全ては、私が人より醜く産まれただけ。
私が人より友達を作るのが下手だっただけ。
もう、涙は出ないの。
心もどこかに置き忘れてしまったみたい。
さっきまで刺さるように冷たかったフェンスも、肌を過ぎる風も、今は何も感じない。
この鼓動だって、あと一歩踏み出すだけで、紙風船のように簡単に破れてしまう。
私は、それだけの存在。
私が消えてしまえば、みんな喜ぶ。
私も辛いおもいをしなくてすむから。
落書きで酷く汚れた上履きを脱ぐと、擦り傷で出血した右手で、そっと揃えた。
靴下越しにコンクリートの硬さを感じた。
フェンスを跨ぐように乗り越える。
反対側に立ち、持ち替えたフェンスからは、また刺すような冷たさが手のひらに伝わった。
この期に及んで、私はまだ生を実感してしまうの。
もう、死んでいるのと同じなのに。
ふと、一筋の涙が頬を伝う。
お母さん、こんな娘でごめんなさい。
お父さん、いつも優しくしてくれてありがとう。
洋平、かっこ悪いお姉さんでごめんなさい。
早苗、一度でも友達になってくれてありがとう。
頬を伝う涙が、零れ落ちるその前に。
私は、固く握っていたフェンスを離し、オレンジ色の空へと一歩踏み出だした。
みんなの幸せを見守る天使になりたいと願いながら。
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