安心して、おやすみ。

4/5
前へ
/5ページ
次へ
「君の夢には、強い感情があるから」 「どういうこと?」 「思いがたくさんつまっている夢は、食べると満足感が得られるんだよ」 「悲しい夢を食べても、お兄さんは悲しくはならないの?」 「ならないよ。なぜなら君の夢は君だけのものだから。僕の気持ちはそこにはないんだよ」 「僕だけの夢なのに、食べちゃうの?」 「嫌なのかい?」 「なんだか、そんなふうに言われたら、もったいなく思えてきちゃった」 彼はおかしそうに笑った。それに少年もつられて少し笑みを零した。 「僕が夢を食べれば、君はもう、その夢を見なくて済む。 悲しくて怖い夢を見なくてもよくなって、きっと眠れない夜もなくなるよ」 「それは嬉しいけど……」 「なにか気になる?」 問われて、少年は小難しい顔をして首を振った。 「悲しい夢を食べるのはダメだよ」 「ダメなの?」 「おいしくなさそうだもん」 「どうしてそう思うの?」 「だって、おいしいって言ったお兄さんの顔、笑ってたけど、すごく悲しそうに見えたよ。 お兄さんは、いままで悲しい夢ばっかり食べてきたんじゃない? だからお兄さん、悲しくなっちゃったんじゃない?」 彼は少年の純粋な眼差しに驚いて、なにも言えなかった。そんな彼に、少年は「あ!」とひらめいて、それまでの小難しい顔をやめて笑った。 「お兄さん、僕が見た楽しい夢をあげるから、元気をだしてよ!」 彼の瞳が、月明りの下で光った。眩しい笑顔の少年に、彼は優しく言った。 「ありがとう。でもね、君の楽しい夢を僕が食べたら、君は怖い夢しか見られなくなっちゃうよ」 「そうなの?」 「うん」 「ずっと怖いのは嫌だな。でもお兄さんが悲しいのも嫌だな。どうしよう……」
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加