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「君の夢には、強い感情があるから」
「どういうこと?」
「思いがたくさんつまっている夢は、食べると満足感が得られるんだよ」
「悲しい夢を食べても、お兄さんは悲しくはならないの?」
「ならないよ。なぜなら君の夢は君だけのものだから。僕の気持ちはそこにはないんだよ」
「僕だけの夢なのに、食べちゃうの?」
「嫌なのかい?」
「なんだか、そんなふうに言われたら、もったいなく思えてきちゃった」
彼はおかしそうに笑った。それに少年もつられて少し笑みを零した。
「僕が夢を食べれば、君はもう、その夢を見なくて済む。
悲しくて怖い夢を見なくてもよくなって、きっと眠れない夜もなくなるよ」
「それは嬉しいけど……」
「なにか気になる?」
問われて、少年は小難しい顔をして首を振った。
「悲しい夢を食べるのはダメだよ」
「ダメなの?」
「おいしくなさそうだもん」
「どうしてそう思うの?」
「だって、おいしいって言ったお兄さんの顔、笑ってたけど、すごく悲しそうに見えたよ。
お兄さんは、いままで悲しい夢ばっかり食べてきたんじゃない?
だからお兄さん、悲しくなっちゃったんじゃない?」
彼は少年の純粋な眼差しに驚いて、なにも言えなかった。そんな彼に、少年は「あ!」とひらめいて、それまでの小難しい顔をやめて笑った。
「お兄さん、僕が見た楽しい夢をあげるから、元気をだしてよ!」
彼の瞳が、月明りの下で光った。眩しい笑顔の少年に、彼は優しく言った。
「ありがとう。でもね、君の楽しい夢を僕が食べたら、君は怖い夢しか見られなくなっちゃうよ」
「そうなの?」
「うん」
「ずっと怖いのは嫌だな。でもお兄さんが悲しいのも嫌だな。どうしよう……」
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