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ふたりきり
「すまんが……妻と二人きりにしてくれんかのう?」
老人がしわがれた声で言うと、人々はぞろぞろと部屋の外へ出て行く。
——妻ですって? あんな女、どうせ遺産目当てでしょ?
——騙されてるって気付かないのかな
ひそひそ声とも呼べないほどあけすけな陰口たちも、重たい扉が閉まると聞こえなくなる。
しんとした部屋に、雨の音がかすかに響く。
「……あなた、みなさん、出ていかれたわ」
「ああ……紗耶香」
「八十治さん……」
妻は白く長い指で、老人の頬をやさしくなでる。
干からびた老人の皮膚とは対照的に、その手肌にはなめらかなツヤがある。
「……どうやらお迎えが近いようじゃ……わしの人生最期の言葉を、聞いてくれんかのう」
「ええ、もちろんだわ」
老人は静かに話しはじめた。
「これは誰にも話したことのない、わしの人生最大の秘密じゃ……」
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