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あと
入院生活を重ねて半年、ようやく臨月というゴールが近づいてきた。
「真由ごめん。あたしが女の体だったら代わりに妊娠できたのに」
「馬鹿言わないで。あっちゃんの体が女じゃなかったから、私たち二人の血を引いた子どもができたんだよ」
腕から点滴スタンドへと伸びたチューブ越しに窓を眺めると、純白の翼を広げた鳥が、悠然と青空を横切っていくのが目に入った。
「ねぇ、あっちゃん。病室の外を鳥が飛んでるよ。自由にどこまででも行けるんだろうね。いいなあ」
「ほんとだ。あたしたちの子にも、あの鳥のように大きく羽ばたいてほしいね。あたしや真由みたいに躓かずにさ」
男に生まれたのなら男らしくあるべきだとか、年頃になれば好きな人を見つけて恋愛すべきだとか、どうして私たちは“普通”にとらわれてしまうのだろう。
それが普通だと言うなら、どうして、そう生まれ付くことができなかった私たちのような、理不尽な生があるのだろう。
どんなに苦しもうとも明日は来る。白日の下に生まれたら、そこから未来に向かって飛んでいくしかないはずなのに。
お腹の中から呼応するような拍動を感じ、それに支えられるように私は一つの思いを口にした。
「飛ぶ鳥と書いて『あすか』。どうかな? 赤ちゃんの名前」
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