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「素敵な名前ね。でもお腹の子は男の子だよ。いじめられたりしないかな?」
「いじめるやつがいたら、私がとっちめてやるんだから」
今になって二十年以上前のいじめっ子たちの顔が浮かんだ。
ハローキティのシールで装飾された筆箱を抱えた、幼いあっちゃんのふにゃふにゃした笑顔も。
「真由ったら、あたしのことからかった男子に立ち向かうときも一年生と四年生の年の差を気にしていたのに。
この子が小学校に上がる頃には真由は四十歳でしょ。いい大人がよその子とっちめたら虐待で捕まるかもよ」
「それもそうね。私たちの息子が小学生になる頃かあ。見たかったなあ。死ぬの惜しいなあ」
「ちょっと冗談やめてよ。お母さん二人で子育てするんじゃなかったの?」
慌てて取り繕うあっちゃんだったけれど、冗談じゃ済まないことを薄々感じているようだった。
おそらく私は、今このお腹の中で脈打っている命を、お腹の外に出した後、育てることは叶わないだろう。この子をあっちゃんに引き渡し、私は逝かねばならない。
私が母胎で育てた我が子を、誕生後、時に理不尽なこの社会で育て上げるために、この子にはお母さんが二人必要だったのかもしれない。
「あっちゃん、これはお母さん業の引き継ぎよ。私たちの息子を、あすかをよろしく頼みます」
お母さんのバトンを最愛の彼女が受け取ったのを見届けた私は、思い残すことは何もないと、これ以上なく幸せな気持ちに包まれた。
ゴールはもうすぐそこだった。
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