さき

4/4
14人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ
「あっちゃんも来年から中学生だね」 「真由ちゃんが入れ違いで卒業しちゃうの寂しいよ。一緒に通いたかったなあ」  ママが作ってくれたレモネードのグラスの中で、(いびつ)に溶けた氷が音を立てる。  持ち上げたグラスの側面に浮いた水滴が、制服のスカートにぼとぼと落ちた。 「わっ、濡れちゃった。まだ木曜だから明日一日着たいのに。制服ってこういうとき面倒だー」 「はぁ、中学から制服かあ。やだなあ」  慌てる私を一瞥(いちべつ)してあっちゃんはそう言うと、ルームワンピースの皺を手で伸ばした。  いつからかあっちゃんはうちに来ると、ママが作ったうち専用の部屋着に着替えるようになっていた。 「うちは可愛い服とかあんまり買ってもらえないけど、それでも好きな服が着たいな」 「大人になるまでの辛抱だよ」 「真由ちゃんはあたしより先に大人になるからいいよね。年齢的にはもうすぐ結婚できちゃうんだ」  いつもの私たちは年の差なんて特に意識しないというのに、今日のあっちゃんは少し様子がおかしい。  スカートの染みをハンカチで拭きつつ、「なんかあったの?」と聞いてみた。 「実は好きな子ができたの」 「えっ、どんな子?」  ずんと胸が震えた。来年高校生だっていうのに私はまだ初恋を迎えていない。なのに、妹分のあっちゃんに先に好きな子ができたなんて。 「んっと、矢野くんっていうんだけど、かっこよくてー、うーん、なんていうか、やさしい子?」 「ってなんで疑問形……。本当に好きなの?」 「好きを言葉で説明するのは難しいよ」 「そりゃあそうだね」  少しだけほっとしている自分がいた。  自分は未経験の恋愛話(コイバナ)を聞かされても、うまく反応できない羞恥心もあった。 「真由ちゃんも、高校に行ったら運命の出会いがあるかもね」  見透かしたかのようにあっちゃんが笑って、また胸の痛みは強くなる。  やっぱり私はまだそういうのはよくわからない。  クラスや部活の男子と話すよりも、あっちゃんと二人、うちで女子会している方がよっぽどいい。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!