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「あっちゃんも来年から中学生だね」
「真由ちゃんが入れ違いで卒業しちゃうの寂しいよ。一緒に通いたかったなあ」
ママが作ってくれたレモネードのグラスの中で、歪に溶けた氷が音を立てる。
持ち上げたグラスの側面に浮いた水滴が、制服のスカートにぼとぼと落ちた。
「わっ、濡れちゃった。まだ木曜だから明日一日着たいのに。制服ってこういうとき面倒だー」
「はぁ、中学から制服かあ。やだなあ」
慌てる私を一瞥してあっちゃんはそう言うと、ルームワンピースの皺を手で伸ばした。
いつからかあっちゃんはうちに来ると、ママが作ったうち専用の部屋着に着替えるようになっていた。
「うちは可愛い服とかあんまり買ってもらえないけど、それでも好きな服が着たいな」
「大人になるまでの辛抱だよ」
「真由ちゃんはあたしより先に大人になるからいいよね。年齢的にはもうすぐ結婚できちゃうんだ」
いつもの私たちは年の差なんて特に意識しないというのに、今日のあっちゃんは少し様子がおかしい。
スカートの染みをハンカチで拭きつつ、「なんかあったの?」と聞いてみた。
「実は好きな子ができたの」
「えっ、どんな子?」
ずんと胸が震えた。来年高校生だっていうのに私はまだ初恋を迎えていない。なのに、妹分のあっちゃんに先に好きな子ができたなんて。
「んっと、矢野くんっていうんだけど、かっこよくてー、うーん、なんていうか、やさしい子?」
「ってなんで疑問形……。本当に好きなの?」
「好きを言葉で説明するのは難しいよ」
「そりゃあそうだね」
少しだけほっとしている自分がいた。
自分は未経験の恋愛話を聞かされても、うまく反応できない羞恥心もあった。
「真由ちゃんも、高校に行ったら運命の出会いがあるかもね」
見透かしたかのようにあっちゃんが笑って、また胸の痛みは強くなる。
やっぱり私はまだそういうのはよくわからない。
クラスや部活の男子と話すよりも、あっちゃんと二人、うちで女子会している方がよっぽどいい。
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