カモフラージュ

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カモフラージュ

 センター試験対策の補習を終えて帰宅すると、私の部屋にママが通したあっちゃんが三角座りをした膝の上に顔を伏せて、肩を震わせていた。 「どうしたの、あっちゃん」 「真由ちゃん、やっぱりあたし無理だった。矢野くんに手紙渡そうとしたけど、でも……」  あっちゃんが六年生で初恋を自覚してから三年が経っていた。半年後に中学を卒業すれば彼と進路が分かれてしまう。  直接告白するのは怖いと言うあっちゃんと二人で文面を考えたラブレターは、ぐしゃぐしゃになってあっちゃんの(てのひら)に握られていた。 「隣のクラスの橋本さんのことが好きなんだって。あたし同じ卓球部だから仲を取り持ってくれって頼まれちゃった」 「そんな……」 「やっぱみんな、あたしみたいなのより橋本さんみたいな可愛い子がいいよね」 「あっちゃんだって可愛いよ」  橋本さんという女子のことは知らないが、本音だった。あっちゃんは少し怒ったような顔ではにかんだ。 「そんなこと言うの真由ちゃんだけだよ」 「なんたって私の自慢の妹なんだから」 「うん……ありがと。あたしも真由ちゃんのこと本当のお姉ちゃんみたいに大好きだよ」  その言葉は私の宝物になった。  あのとき「大好きだよ」と言ってくれたあっちゃんの泣き顔はその後、何度も反芻(はんすう)してきた。
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