カモフラージュ

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「昔から男子が野球してるのそっちのけで、体の弱い私に合わせてお絵描きとかおままごとに付き合ってくれてたもんね」 「無理に付き合ってたわけじゃないよ。吉田敦は女遊びに付き合わされてる、尻に敷かれてるなんて噂されてたけど、あたしはあたしがしたい遊びをしてただけなんだから」 「わかってるよ。あっちゃんが馴染んでたから、私はあっちゃんと姉妹気分だった」  あっちゃんのクラスの男子をとっちめるなんてことはできなくて、陰で「吉田くんは私の遊びに付き合ってくれている」と吹聴して回ったことは内緒だ。 「結婚式も『あつしさん、まゆさん』って連呼されるの憂鬱だなあ。どうせカモフラージュ婚なわけだし、今日だけ我慢かな」  あっちゃんが何の気なしに言った「どうせ」の部分に、少しだけ胸がちくりとする。振り払うように私は考えていた計画を披露した。 「結婚式が終わって落ち着いたらさ、二人で写真だけでも撮り直さない? 今度はウェディングドレス二着借りてW(ダブル)花嫁バージョンで」 「わぁ素敵! 実は真由ちゃんに相談があるんだけど」 「なあに?」 「あたし名前を変えようかと思ってて。改名は大変だけど、読み方だけなら割と簡単に変えられるみたい。 敦という漢字はそのままで、読みだけ『あつし』から『じゅん』にしようかなって。全く音の違う名前になっちゃうなんて変かな」 「いいじゃない! そんなこと言ったら、私だって結婚したら苗字が変わって吉田真由になるんだから。末永くよろしくね、じゅんちゃん」 「真由ちゃんは今まで通り『あっちゃん』って呼んで。 真由ちゃんと真由ちゃんママだけは幼稚園のときのあだ名で呼び続けてくれたの感謝してるの。 真由ちゃんちでは可愛く着飾って、『あつこ』という女の子であるように錯覚できたから。 あそこに居場所があったから、あたしはあたしらしさを失わずにここまで来られたの」
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