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言葉ではどれほど怒っていても、自らが手を出すことなどないだろう尚希が手を上げた。その事実が受け入れられず、一体何があったのか? 天王寺の方が聞きたくなってしまった。
「……尚希、兄さん」
「お前は、最低だよ」
小さく名を呼んだが、尚希は天王寺ではなく高城を見下ろして、そう声を浴びせていた。最低だと言われ、高城は顔をあげて天王寺を睨んだ。
「どっちが最低なんだ」
唾を吐き捨てるように悪態をつく高城は、天王寺に最低なのはお前の方だと言い切った。話が見えない。天王寺は眉をあげて高城に一歩近寄った。
「私の何が最低だと申すのだ」
「姫木先輩を無理やり襲って、……レイプしたんだろう」
「……ッ」
自らが犯した罪を責められ、天王寺は声を詰まらせた。忘れた訳じゃないが、忘れたい過去の汚点。怒りに任せて、姫木を組み敷いて無理矢理身体を奪った。決して許されることではない、それでも姫木は許してくれた。
でも、それを誰かに暴かれるのは、罪を課せられる瞬間。
「高城ッ、……尚、ちゃん?」
天王寺に聞かせたくない罪を言葉にされ、尚希が声をあげたが、天王寺はそれを片手で制した。これは自分の問題だと、天王寺は珍しく尚希に口を出さないで欲しいと下がらせた。
「姫に薬を与え、手中に収めようとした貴様も同類である」
「あんたと同じ条件で、姫木先輩に迫っただけだろう」
そう言って、不敵に口角をあげた高城は、「痛くないようにしたんだから、俺の方が優しいだろう」と、嫌な笑みを浮かべた。
薬を使用したのは、姫木が痛くないように襲うつもりだったと白状するが、先ほどの姫木の様子を思い描き、危険すぎる薬を使用したことには腹が立つ。
「貴様が口にする通り、私は罪を犯した」
同意などなく、怒りに任せて姫木を抱いて、傷つけた。軽蔑されても嫌われても当然の事。
けれども、姫木はそれを許し、自分を愛してくれた。今共にいられるのは、全て姫木の優しさなのだと、天王寺は深く感謝した。
だが、高城はその優しさを利用する。
「姫木先輩って、めちゃくちゃ優しいんですよ」
「何が言いたい?」
「俺が泣いて謝罪したら、きっと許してくれますよ」
笑った。
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