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高級車、普通に生活してたら、そうそうお目にかからないだろう車は、なぜか俺の隣で止まる。 それも、絶対ヤバい人が乗ってそうな白のリムジン。 窓がゆっくりと下げられると、微笑む凛々しいお爺さんが手招きした。 見覚えがある、天王寺治尚だ。 「天王寺のお爺さん?」 まさかの人物に、俺は思わず後退り。 やっぱり天王寺との仲を裂きにきたのかと、身体を震わせれば、会長はにっこりと微笑んでさらに手招き。 「少しよいかな」 「……えっと、その」 「取って食ったりはせぬ、安心せよ」 明きからに怯えていた俺に、会長は相談があるのだと持ちかけてきた。 この俺に相談? 天王寺グループの会長ともあろうお方が、学生の俺に一体なんの相談があるのかと、息を飲む。 戸惑っていたら、運転手が降りてきてドアを開ける。 (これって、乗れってこと?) 無言で立たれ、俺はどうしていいか分からず、運転手を見上げる。 「どうぞ」 視線が合うと車に乗るように促された。 断ることも出来ず、とりあえず俺は車中へ。俺が車に乗るとドアが閉められ、運転手は運転席へと周り、再び車を発進させた。 「温泉は好きか?」 向い合わせで座った俺に、会長は唐突にそんな質問をしてきた。 嫌いじゃない、むしろ好きな方だったから、俺は素直に「好きです」と答える。 俺が好きだと答えると、会長は心なしか微笑んだような気がしたが、すぐに瞳を伏せて、軽いため息をつく。 「久々の日本、孫たちも揃っておるので、皆での温泉旅行を提案したのだ」 会長は両手で顎を支えるような体勢で、そう呟いた。 一時帰国のため、また日本を離れると言った会長は、可愛い孫である尚政、尚希、尚人の三人がせっかくここ日本にいるので、皆で旅行に行きたいと話したと、教えてくれた。 家族水入らずで温泉旅行、たまにはそういう息抜きもいいと思い、俺は素直にオススメの温泉地でも聞きたいのかと、箱根や草津など定番の温泉地を幾つか思い浮かべたが、会長は落胆したまま俺の顔を見る。 「尚人が行かぬと申したのだ」 「天王……、尚人さんが?」 いつものように天王寺と呼び捨てにするところだったのを、慌てて訂正する。 どうやら、尚政さんと尚希さんは行くと言ったみたいなのだが、尚人だけが断ったらしい。
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