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4話
オートロックなので、扉は自動で鍵がかかり、何故か天王寺は部屋に一人残された。
全くもって意味が分からないと、部屋を出て尚希を問い詰めようとしたのだが、無造作に散らかったスリッパを見つけ、天王寺は眉をあげた。
「誰かおるのか……」
そこまで考えた天王寺は、瞬時に姫木を思い浮かべた。
まさか、尚希の部屋にいるというのか?! 天王寺は急いで部屋の襖を開けたが、誰もいない部屋が静かに時を刻んでいるだけだった。
だが、どこからかくぐもった声が微かに聞こえ、天王寺は耳を済ます。
声は隣の部屋からしていることを知り、天王寺は静かに襖の前に進む。
「……ぁ、ゃ……ぁぁっ……」
色のある声が聞こえ、天王寺は思わず動きを止めてしまう。この部屋の主は、今現在不在中。
履き物は一足のみ。だが、明らかに部屋の中で、淫らな行為が行われていることは明白。
必死に声を押さえているようだが、その声は間違いなく姫木だった。
天王寺は頭に血がのぼるのを覚えながらも、相手を確かめようとそっと扉に手をかけ、隙間から見えた光景に心臓が跳ねた。
乱れた浴衣を下に敷いたまま、汗ばんで火照る身体をくねらせて、下肢に手を伸ばし、自らの手で行為におよんでいたからだ。
相手などいなく、姫木は自分で自分の身体をまさぐっていた。
「やぁ、……っぁ、……止まらない……ッ……」
後部に指を挿入して、快楽を求める姫木。
その姿は異常ともとれ、天王寺は現状を分析する。
先ほどの尚希の台詞、姫木の様子から恐らく何か盛られていると推測した。
尚希が残した「犯人」、それはきっと姫木をこんな常態にした者のことだろう。
(許せぬ)
頭に浮かび上がった文字はそれだったが、今は姫木を救ってあげることが優先と、天王寺は部屋の明かりを消し、そっと襖を開けた。
犯人は、尚希に任せておけば、然るべき処置をするとわかっていたから。
それと、今になって尚希の言葉の意味を知る。
怯えさせてはいけない。薬で錯乱している姫木に、恐怖を与えるような行動をすれば、記憶に刻まれ、尚希が言った通り、二度と触れられなくなる。
天王寺は音をたてずに部屋に入り、もて余す熱に侵食され、泣いていた姫木の手をとった。
「あ、……」
そっと手を捕まれ、姫木は驚愕したように目を開く。
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