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分かっている。姫木はきっと反省する高城を許すだろうと。天王寺はその優しさが好きで、苦手なところだった。誰にでも優しくして、無邪気に笑うから恋敵が後を絶たないのだと、全部分かっているが、それを奪うこともできないことも知っている。
天王寺は、勝ち誇ったように笑う高城を蹴り飛ばしたい衝動を抑えつつ、目を細める。
「姫が許したとしても、私は許さぬ」
絶対に近づけさせないと牽制をはるが、高城はなぜか吹き出す。
「卒業まで精々頑張ればいい」
「……貴様の好きにはさせぬぞ」
「姫木先輩に、大学を辞めさせるつもりなんですか?」
自分はまだ1年、姫木と過ごす時間はまだあると、近づくチャンスも、口説くチャンスもあるのだと挑発する。大学を卒業した天王寺は、社会に出て学ばなければならないことがあり、しばらくは父のいるアメリカに行くことが決まっている。
つまり、どれほど傍にいたくとも姫木とはしばらく離れなければならない。不安要素は高城だけではない、自分が不在中に姫木に言い寄ってくる者はきっといる、しかも高城のように無理矢理襲ってくる者もいるやもしれないと、天王寺の表情はどんどん曇る。
姫木が大学を卒業するまで待つと決めた。それまでに自分は実力をつけ、姫木を迎えに来るとも決めている。
「そのようなことはしない」
天王寺ははっきりと断言した。姫木をアメリカに連れ行くことはしないと。
それを聞き、高城は益々顔を緩めた。
「安心しました。これでゆっくり姫木先輩を落とせますね」
「姫は貴様などに落ちたりはしない」
「さあ、どうでしょうか」
「私は姫を信じておるのだ」
自分だけを愛してくれていると、天王寺は心から信じた。自分もまた姫木だけを愛していると。
それでも高城は、笑うのを止めない。
「人は寂しいと、優しさに縋りたくなるんですよ」
天王寺がいなくなった寂しさにつけ入る気でいる高城は、絶対に姫木を手に入れると唇を歪める。優しすぎる姫木、可愛い姫木、思わず泣かせてしまいたくなると、高城は笑みを浮かべる。
が、しかし、ここで口を挟んだのは尚希だった。
「残念だが、お前に姫ちゃんの近くに居る資格はないよ」
部屋の壁に片腕をついた尚希は、天王寺に優しい眼差しを向け、ウインクをしてみせた。
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