5話

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分かっている。姫木はきっと反省する高城を許すだろうと。天王寺はその優しさが好きで、苦手なところだった。誰にでも優しくして、無邪気に笑うから恋敵が後を絶たないのだと、全部分かっているが、それを奪うこともできないことも知っている。 天王寺は、勝ち誇ったように笑う高城を蹴り飛ばしたい衝動を抑えつつ、目を細める。 「姫が許したとしても、私は許さぬ」 絶対に近づけさせないと牽制をはるが、高城はなぜか吹き出す。 「卒業まで精々頑張ればいい」 「……貴様の好きにはさせぬぞ」 「姫木先輩に、大学を辞めさせるつもりなんですか?」 自分はまだ1年、姫木と過ごす時間はまだあると、近づくチャンスも、口説くチャンスもあるのだと挑発する。大学を卒業した天王寺は、社会に出て学ばなければならないことがあり、しばらくは父のいるアメリカに行くことが決まっている。 つまり、どれほど傍にいたくとも姫木とはしばらく離れなければならない。不安要素は高城だけではない、自分が不在中に姫木に言い寄ってくる者はきっといる、しかも高城のように無理矢理襲ってくる者もいるやもしれないと、天王寺の表情はどんどん曇る。 姫木が大学を卒業するまで待つと決めた。それまでに自分は実力をつけ、姫木を迎えに来るとも決めている。 「そのようなことはしない」 天王寺ははっきりと断言した。姫木をアメリカに連れ行くことはしないと。 それを聞き、高城は益々顔を緩めた。 「安心しました。これでゆっくり姫木先輩を落とせますね」 「姫は貴様などに落ちたりはしない」 「さあ、どうでしょうか」 「私は姫を信じておるのだ」 自分だけを愛してくれていると、天王寺は心から信じた。自分もまた姫木だけを愛していると。 それでも高城は、笑うのを止めない。 「人は寂しいと、優しさに縋りたくなるんですよ」 天王寺がいなくなった寂しさにつけ入る気でいる高城は、絶対に姫木を手に入れると唇を歪める。優しすぎる姫木、可愛い姫木、思わず泣かせてしまいたくなると、高城は笑みを浮かべる。 が、しかし、ここで口を挟んだのは尚希だった。 「残念だが、お前に姫ちゃんの近くに居る資格はないよ」 部屋の壁に片腕をついた尚希は、天王寺に優しい眼差しを向け、ウインクをしてみせた。
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