5話

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「尚希兄さん?」 「尚ちゃんは心配しなくていいから」 そう言いながら、今度は尚希が高城に近づく。先ほど盛大に殴られたせいか、反射的に高城の身体が怯える。 「ねえ、あの薬どこで手に入れたの?」 「知らない」 「姫ちゃん、随分良さそうだったけど、後遺症とかあるんじゃないの?」 指で高城の顎を持ち上げて、かなり強い媚薬なんじゃないかと問う。そんなものを使用して姫木に何かあったら、どう責任取るのかと問い詰めるように。 鋭く光る瞳が背筋を凍らせる。尚希には妙な噂があることは知っている。表の顔は少々出来の悪い次男だが、裏の顔があると。 「……貰ったんだ」 視線を逸らして高城が言い捨てると、尚希はなぜか口元を緩めた。 「ダークセントラル」 囁くように言われた言葉に、高城はビクッと揺れた。その反応を確かめ尚希は、目を細めて僅かに口角を上げた。 ダークセントラル、闇取引が行われている名称。ドラッグや人身売買、密輸など社会の裏で蠢く闇市場。元締め候補は何人もおり、今だ総元締めの尻尾は誰も掴めていない。普通では決して足を踏み入れない、その名前すら知ることのない世界だった。 「高御堂家のご子息が、そんなところと繋がってるなんてね」 「だから貰ったと……」 「裏取ってみようか?」 「そんなこと」 「できるよ」 きっぱりと尚希は言い切った。本当に貰ったものかどうか、それを確かめる手段があると。 妖艶で綺麗な瞳が光を増す。尚希の噂は本当に事実だったのか、高城は喉を鳴らすように唾を飲み込む。 「あんただって、天王寺家が……」 そんなところと繋がってるなんて、大スキャンダルになると口に出そうとして、その口を閉じた。いや、閉ざされた。 しゃがみ込んだ尚希が、高城の口元に人差し指を差し出したからだ。 「僕は、それを追ってる人物と知り合いなんだよ」 裏ではなく、表と繋がっていると尚希は告げた。つまりは、刑事と呼ばれるようなところと繋がっていると。しかもその人物は長年追っているため、なかり内通するような者だとも付け加えて。
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