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高城の口を塞いだ尚希は、笑みを見せて人差し指を外す。
「君にそれを提供した人物を探すのは、簡単だよ」
『どうする?』そう尋ねられた。闇市場に足を踏み入れた事、ドラッグを手に入れた事、そんなことがお爺様に知られたら、……そこまで考えた高城は顔を青くして尚希を見た。
しかも、現物の残りがまだ手元に残っている。
青ざめた表情を逃さなかった尚希は、益々イタズラな笑みを見せる。
「イタリアに名門大学があるんだけどなぁ~」
誘導した。
それは高城に転校を促していた。しかもちゃっかり自分のテリトリー内。
これ以上姫木に近づけさせない、会わせないための手段。
「それは脅しか……」
「提案だよ。決めるのはお前だ」
脅迫しているわけでも、強要しているわけでもなく、自分で選べばいいと尚希は微笑む。あくまでも自分の意志で選択すればいいと。
強要でなければ、天王寺家に何ら非はない。高城が自ら決めたことに、高御堂家が介入してくることはない。
完全に負けたと、高城は奥歯を噛み締め俯いた。
「……わかった」
絞り出したような声で、高城は姫木を諦めると言った。どうあっても尚希には勝てない、そんな気がしたから。
「イタリアっていいところだよ」
街並みも素敵だし、料理も美味しいと、尚希はいろんな刺激を与えてくれる街だと話した。
それを聞きながら、高城は肩を落としたまま天王寺を見上げた。
「あんたより先に出会ってたら、良かったのにな」
吐き捨てるように、先に姫木に出会えていたら、きっと自分が隣にいたんじゃないかと、高城は苦笑した。本気で可愛いと、傍にいたいと思ったんだと。
「姫は私と出会うために生まれたのだ。他の誰も愛さぬ」
「すげー自信。……恐れ入ったよ」
「私は姫以外愛さぬし、生涯離すつもりもない」
天王寺は迷いなく断言。それを聞いた高城と尚希は、なぜか顔を見合わせて苦笑を交わしていた。本当に姫木しか見えてないんだな、と。
「尚ちゃんらしいよ」
姫木に出会ってから、まるで別人のようになった天王寺だったが、なぜかその発言が天王寺らしいと、尚希は笑っていた。
大人しくて控えめだった可愛い弟は、我が儘全開、暴走全開、恋に一直線の、正直に突き進む可愛い弟になったと。
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