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一方、薬の効果が消え、誰もいない静かな部屋で目を覚ました姫木は、目を開けてすぐに顔を真っ赤に染めていた。
「……俺」
昨夜の出来事を全部ではないにしろ、断片的に覚えており、とんでもない醜態を晒してしまったことに、恥ずかしくて恥ずかしくて布団に潜り込んだ。
新しい浴衣を着せられ、身体から石鹸の香りがすることから、天王寺が洗ってくれたことまで知り、益々身体を丸めた。
「ど、どんな顔すればいいんだ……」
恥ずかしすぎて天王寺の顔なんか見れないと、姫木は動機息切れまで感じながら、布団の中で爆発しそうな心臓を抑える。
どうしよう、どうしよう、そもそもこの部屋って、尚希さんの部屋で、しかもあんなことしちゃって、あんなに喘いじゃって、求めちゃって、縋っちゃって、変な薬のせいかもしれないけど、はしたないだろう俺!
……嫌われた、かな。
不意にそんなことを考えて、姫木は逃げるように布団に包まって、押し入れに潜り込んだ。
真っ暗でひんやりした空間が心地いい。このまま誰にも見つからずに家に帰りたい、そんなことを考えた頃、部屋に誰か戻ってきた音がした。
「姫?」
襖をあけて部屋を確認すれば、姫木の姿はなく天王寺は若干血の気を失い、部屋を見回した。部屋にスリッパはあった。まさか裸足で部屋を飛び出したのではあるまいかと、天王寺は慌てて探しに行こうとしたのだが、
「天王寺、なのか?」
小さな声がどこからか聞こえ、足を止める。
「どこにおるのだ、姫」
「ごめん、……俺」
泣きそうな細い声が押し入れから響き、天王寺はそっとそこへ近づく。
「もしやこの中におるのか?」
「開けんな!」
天王寺が姿を確かめるべく、押し入れを開けようと手をかければ、中から怒声が浴びせられた。だから思わずその手を止めてしまった。
「姫、姿を見せてはくれぬのか?」
「やだ」
「どうしたというのだ姫」
押し入れに立てこもってしまった姫木に、天王寺は困惑の声を出す。一体何があったというのかと、眉間に皺を寄せ、じっと中の様子を伺う。
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