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記憶が混ざっていく。自分が覚えている記憶は本当に現実だったのか? もしかしたらアレは全て夢だったのか? 姫木の頭の中はグルグルと回り始める。
天王寺が嘘をついているとは思えないが、残る記憶はあまりにも卑猥で羞恥で。
「俺……」
「酔いが覚めたのなら、私に顔を見せてはくれまいか?」
いつもの優しい声がする。
「一晩耐えたのだ、姫の手に触れるくらいは許して欲しいのだ」
初めての旅行だというのに、抱きしめることも優しいキスの一つもできていないと、天王寺はせめてその指でいい、触れたいと申し出る。
その切ない声色に姫木はそっと襖をあけた。
朝日と共に映ったのは、天王寺のキラキラと眩しい笑顔。姫木の姿を捉えた天王寺は、手を掴むとそのままそこから引っ張り出すように、強く引く。
油断していた姫木の身体は、引かれるまま天王寺の胸中に抱き寄せられた。
「ようやく姫に触れることが叶った」
とても嬉しそうに声をだした天王寺は、ギュッと抱きしめると、そのまま優しく髪を撫でてくれた。
「……えっと」
「私がどれほど姫に触れたかったか、そなたには分かるまい」
昨日からずっとお預けを喰らっていたのだと、天王寺はもうずっと触れたくて仕方なかったと本音を零す。
その腕の強さに、やっぱりアレは夢? だったのかもしれないと、姫木は思わず天王寺に腕を回していた。
怖かった、恥ずかしかった、嫌だった……、そんな思いをぶつけるように、ただただ強く抱きついた。
「姫っ」
まさか姫木から抱きついてくるなど予想もできず、天王寺の方が驚いてしまったが、姫木が安心するならそれでいいと、そのまま黙って好きなようにさせた。
生涯でたった一人の姫。
天王寺は、何があっても姫木を守ると誓った。
そして、やはりアメリカに連れ行くべきかもしれないと、危険な妄想も一緒に始めていた。
その為には、何としても姫木と婚姻を結ばねばならぬと、天王寺の暴走は再び走り始めたのだった。
おしまい
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