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目を覚ますと、辺りはすっかり眩しくなっていた。どうやら、よく眠っていたらしい。
ベッドの右側に視線を向ける。しかし、求める温かさはなく、少年――アメ一人が部屋に残されていた。
「父さん、おはよう」
「おはようアメ、ちゃんと眠れたようで良かった」
村の出口、見張り番として父――トイは一人立っていた。
ここは辺鄙な地にある村だ。門の一歩向こうは森林で、人の気配は微塵もない。いや、そもそも人が来ること自体なかった。
見張り番は、村人が門から出ない為の業務でしかない。この村は、住民である限り、一歩たりとも門外に出ることを禁じていた。
人が来ないのも出てはいけないのも、村の状態に理由がある。それこそが、村に悪い妖達が住み着いているせいだった。
「木漏れ日、綺麗だね。やっぱ明るいって良いや」
「そうだな。まぁ個人的に夜の方が好きではあるが」
「うーん、僕は苦手だな、夜。と言うか、村人の大半がそうだと思うけど」
「だろうな。もしかすると、この感覚も妖のせいかもな」
「そうだね……」
――と言っても視える人間はおらず、姿形は確認はされていない。しかし、人々を襲う様々な害が、いつしか存在を肯定する理由となった。
「はぁ、夜が怖いな」
「それ、もう口癖だな。大丈夫、俺がずっとついてるよ。魘されたらすぐ起こすから」
事実、アメは悪夢による不眠に悩まされ、トイは睡眠すら取れない体にされていた。とは言え、トイの方は不思議と生活に支障をきたすことはなかったが。
その他にも、人に起こりうるにしては奇妙な症状が、村の中で多く起きているのだった。
「……うん、ありがとう父さん……」
アメはトイの手を取り、ぎゅっと握る。愛情の感覚を手に、トイは嬉しそうにはにかんだ。
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