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 光のような声が、闇の中に降ってくる。逃げ惑っていたアメは、そこが夢だとやっと理解した。  息を切らすアメの背が、大きな腕に包まれる。その体温と月明かりを心に招き、懸命に夢を追い払った。 「アメ、大丈夫だからちゃんと息整えて。一度確り目覚めたら、もう一度眠ってみよう」  どれだけ眠りが怖くても、眠らずしては生きて行けない。だからいつも何度も挑戦した。  その努力で何とか命を繋いで来たが、それでも体は確実に弱っていっている。 「……一緒に眠りたい」 「添い寝じゃ駄目か?」 「添い寝も嬉しいけど本当に。一緒に眠れたら、悪夢なんか見ない気がするんだ」  アメは幼い頃から悪夢に悩まされてきた。ただ、昔はトイも眠りのない体ではなく、同じように悩まされていたものだ。  その時、共に眠っている間だけ、上手く眠れた記憶がアメにはあった。 「……ごめん、無茶だって分かってるのに」 「いや、俺も叶えてあげられなくてごめんな」 「父さんは、その時のことよく覚えてないんだよね」 「ああ、記憶はあるが感覚がないと言うか。それこそ夢を見てるみたいな」  対してトイは朧気にしか、その頃の感覚を持っていなかった。妖の魔力に当てられたのだろう――二人してそう憶測している。 「でも、心地良かったのは覚えているよ。おやすみと言い合って二人で眠る。そうだな、叶うならもう一度そうしたいな」  「いつか叶えたいね。前みたいに、二人で夢の世界に行くんだ」 「ああ、そして二人で幸せな夢を見るんだ」 「うん、見たいね。幸せな夢」  アメは、忘れてしまった感覚を想像し、微笑む。悪夢に殺される前に一度だけでも叶えたい――そう心から願った。
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