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村の中心、掘られた穴の周りを村人が囲む。穴の中には、目を閉じた人間がいた。沈んだ空気が辺りを包む。
今日は葬式だ。小さな村ゆえ、人が亡くなると一同総出で故人を弔う。ただ、場の空気には恐怖も入り交じっていた。
鎮魂歌が響く中、アメがポツリと溢す。
「……ねぇ父さん、死ぬってどんな感じだろう」
「そうだな……。不安か?」
この葬式は、妖に呪われた者の葬式だ。それも、悪夢に侵された者の式である。
ただ、妖による死も、若くして亡くなるのも珍しくなかった。
「それもあるけど……。僕、時々考えるんだ。眠りと死は似てるんじゃないかって」
「どうしてだ?」
「眠る時ってね、段々と何も考えられなくなって、勝手に目蓋が落ちていくんだ。そうして真っ黒な世界に連れていかれてしまう。誰も教えてくれる人がいないから正解は分からないけど、死んだ後も同じように違う世界を見るのかもしれないって」
「どうなんだろうなぁ……」
アメの言葉を聞きながら、トイは土に消える故人を見つめる。だが、指先を伝った力を受け、反射的にアメを見た。
「もしそうなら怖い……だって、起こしてくれなかったらずっと怖いままなんだよ」
不安げなアメが、トイの腕を引き寄せた。応えるように、トイからも距離を詰める。
「大丈夫だ、きっとそれはない」
「どうして?」
「今まで見た人は皆安らかな顔をしてた。だから見ててもいい夢だ」
アメが視線を揺らした時には、穴は綺麗に埋められていた。だが、トイが微笑んで言うのなら、間違いではないと思える。
トイさえいれば、悪夢への恐怖にも死への恐怖にも勝てる――アメは本気でそう信じていた。
「……そっか、なら辛くないね」
「ほらアメ、幸せな夢が見られるように言ってやりな」
「うん……」
鎮魂歌の響きが尽きかける最中、おやすみなさいと呟く。発音をなぞるように、トイの声も響いた。
帰り道、手を繋いで帰宅する。アメは、連想であることを思いだしていた。
「ねぇ父さん、家の裏に二つお墓があるじゃない? もう一つって誰のお墓だと思う?」
「うーん、見当も付かないなぁ」
家の裏には、小さな墓が二つある。片方はアメの母親の物だと分かっていたが、もう一つが誰の物なのか不明だった。
親族や知人の墓が別の場所にあることで、長年の問いになっている。
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