1/1
前へ
/12ページ
次へ

 村の中心、掘られた穴の周りを村人が囲む。穴の中には、目を閉じた人間がいた。沈んだ空気が辺りを包む。  今日は葬式だ。小さな村ゆえ、人が亡くなると一同総出で故人を弔う。ただ、場の空気には恐怖も入り交じっていた。  鎮魂歌が響く中、アメがポツリと溢す。 「……ねぇ父さん、死ぬってどんな感じだろう」 「そうだな……。不安か?」  この葬式は、妖に呪われた者の葬式だ。それも、悪夢に侵された者の式である。  ただ、妖による死も、若くして亡くなるのも珍しくなかった。 「それもあるけど……。僕、時々考えるんだ。眠りと死は似てるんじゃないかって」 「どうしてだ?」 「眠る時ってね、段々と何も考えられなくなって、勝手に目蓋が落ちていくんだ。そうして真っ黒な世界に連れていかれてしまう。誰も教えてくれる人がいないから正解は分からないけど、死んだ後も同じように違う世界を見るのかもしれないって」 「どうなんだろうなぁ……」  アメの言葉を聞きながら、トイは土に消える故人を見つめる。だが、指先を伝った力を受け、反射的にアメを見た。 「もしそうなら怖い……だって、起こしてくれなかったらずっと怖いままなんだよ」  不安げなアメが、トイの腕を引き寄せた。応えるように、トイからも距離を詰める。 「大丈夫だ、きっとそれはない」 「どうして?」 「今まで見た人は皆安らかな顔をしてた。だから見ててもいい夢だ」  アメが視線を揺らした時には、穴は綺麗に埋められていた。だが、トイが微笑んで言うのなら、間違いではないと思える。  トイさえいれば、悪夢への恐怖にも死への恐怖にも勝てる――アメは本気でそう信じていた。 「……そっか、なら辛くないね」 「ほらアメ、幸せな夢が見られるように言ってやりな」 「うん……」  鎮魂歌の響きが尽きかける最中、おやすみなさいと呟く。発音をなぞるように、トイの声も響いた。  帰り道、手を繋いで帰宅する。アメは、連想であることを思いだしていた。 「ねぇ父さん、家の裏に二つお墓があるじゃない? もう一つって誰のお墓だと思う?」 「うーん、見当も付かないなぁ」  家の裏には、小さな墓が二つある。片方はアメの母親の物だと分かっていたが、もう一つが誰の物なのか不明だった。  親族や知人の墓が別の場所にあることで、長年の問いになっている。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加