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 アメが眠りに入りかけた頃、ざわめきが耳を刺激した。朝の訪れを認識し、また上手く眠れなかったと落胆する。  だが、珍しい喧騒がすぐに落胆を霞ませた。気になったのはトイも同じらしく、そっとベッドを降りていく。 「少し見てくるからアメは休んでてくれ」 「……僕も行く。帰ったらすぐに眠るから」  お願い、と付け足すと、トイが背を向け体勢を低くする。無言の行動にはにかみ、その背に上手く飛び乗った。    背負われた状態で、ざわめきの根元に向かう。そこは村の出口で、見知らぬ女性が村人に囲まれていた。見慣れない服装が異彩を放っている。  女性に狼狽える様子はなく、冷静な姿勢で会話しているのが見えた。だが、距離があり内容まで分からない。  トイは近くにいた村人を捕まえ、情報を求めた。 「ああ、トイさん。外から人が来てな。妖払いをやっているんだそうだ。やっぱりこの村には多くの妖がいるらしい」 「本当か!」  アメもトイも、願っていた転機に胸が騒ぐのを感じた。小さな希望が目の前を照らしはじめる。悪夢の日々が終われば、様々な怖さに怯えなくてよくなる――。 「俺、近くに行って話を聞いてくる。少しだけアメを頼みます」  アメを背から下ろし、トイは足を踏み出した。アメが制止をかけようとした瞬間、女性が二人の方を向いた。 「そこの妖! 少年から離れよ!」  指を指され、場の空気が固まる。不安になったアメは、服を掴みトイへと身を寄せた。  女性が、人を掻き分け歩いてくる。村人が不穏にざわめき出す。 「あんた本当に妖払いなんだな。俺たちの妖が見えるなんて……」  トイが再び踏み出した瞬間、女性の懐から札のような物が取り出された。 「何を言ってる、妖! 早く離れろ!」  それが掲げられた瞬間、紙の周りが焦げ付き始める。地割れが生じたり、雲が立ち込めはじめたりと、天変地異も発生しだす。  ――と同時に、突き出していたトイの腕に火傷が起きた。  他の誰にもない症状に、周囲の全員が困惑する。何より、アメやトイが一番戸惑っていた。 「少年、今すぐそいつから離れろ! 人間のなりをしているが、そいつは悪夢の妖だ!」  だが、直接的な言葉で現実を知る。信じがたかったが、否定もできなかった。女性が近づく度、証拠を刻むように傷が広がってゆく――。 「……父さん、行こう!」  立ち尽くすトイの裾が引かれた。トイは、引かれるままただ走った。    自宅に入るや否や、アメは扉の内側に物を集めはじめた。封鎖し、侵入を防ぐ為だ。  トイは、痛む腕を見ながら呆然とする。 「アメ、俺は人間じゃなくて……」 「父さんは僕が守る!」  背中を向けたままのアメは、ただただ守るための壁を作った。
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