マッチングレイン

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 二駅ほど先の上空に真っ黒な雲があった。時折、内に秘めた脅威が閃光となって垣間見えていた。  流れてくる風の中に、わずかに雨の匂いが感じられた。やがて雷鳴も届く事だろう。 「先輩!」  9階建てオフィスの屋上で、遠くを見つめ缶コーヒーを飲んでいた松田(まつだ)は、その張りのある声に振り向いた。髪の毛が立つほどの短髪に、スーツが不似合いな肩幅。見るからに体育会系だが、スポーツ経験ゼロの古谷(ふるや)が立っていた。 「来てもらって悪いな。今日はもう約束ないだろ? ここ行ってみてもらえるか。ポリゴン社からの紹介だから話は早いと思う」  古谷は受け取った書類封筒の中身を見て声を上げた。 「俺にですか? だってこれ!」 「バカ声がデカいよ。俺くらいになったら顧客が選べるんだよ。頼むぞ」  笑って肩を叩く松田に、古谷は深々と頭を下げた。 「それと夕立が来そうだから、契約が取れても取れなくても早く帰ってこい」  松田は金網のフェンスの向こうに見える、黒い空を指差した。 「俺の手伝いしてもらうから、課長は文句言わないよ」 「はい!ありがとうございます」  どんな顧客に対しても態度がのが古谷の良い所だったが、相性が大きく影響してしまうのが欠点でもあった。  古谷の背中を見送り、残りの缶コーヒーを煽った松田は、思わず動きを止めてしまっていた。
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