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真っ白だった。壁面が白いドームの中のように、頭上がやけに明るかった。
「もうじき降りますよ」
「え?」
薄く白い雲に覆われた空を眺めていた松田は、突然聞こえた耳あたりの良い声の主を探した。
その声の主は、近くのベンチに座り本を読んでいる女性従業員のようだった。束ねた長い髪を左肩から前に流し本を読む姿は美しく、小さな鼻に乗った眼鏡は知性を感じさせた。
「雨。降ってきますよ」
「こんなに明るいのに?」
「白雨。。。ですね」
「はくう?」
いつの間にか松田はベンチの隣に立って、本から顔を上げる事のない女性従業員と並ぶようにして言葉を交わしていた。
「明るい空から降る雨の事。。。です」
「へえー。名前があったんだ。でもこれで降るかなあ。梅雨は嫌だねー」
空を見る松田に、女性従業員は言葉を続けた。
「悪くないですよ。雨」
「ん? ああ。恵みの雨ってやつ?」
「それもありますけど」
まだ何か言いたげな横顔を盗み見た。女性従業員を把握している訳ではないが、これだけ整っていたら知っていておかしくないはずなのに、まったく見覚えがなかった。屋上はマスク着用の義務がなく外しているとはいえ、このたたずまいは目を惹くように思えた。
「結ぶんです。天と地を。縁起がいいんです」
「あーなるほど。確かに」
松田は顎に手を当てて頷いた。
「だから上手くいきますよ」
「ん、何が?」
「契約。。。さっきの人」
「ああ古谷」
ここへきて松田は、違和感をおぼえた。
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