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「あんたは天才なんかじゃない。たまたま運が良かっただけよ。だから、努力し続けないといけない。そう」  巴は腕を下ろし、悟に背を向ける。 「……私みたいに。努力しないと何物にもなれない」 「は、何て?」 「何でもない」  そういって巴は、一人でスタスタと歩きだしてしまった。 「おい、どこ行くんだよ」 「言ったでしょ?今から塾なの。ついてこないで」 「ついてこないで、って言ったって、俺もこっちに用があるんだ。地下鉄の駅、こっちだろ?」  言い返され、巴は怪訝な顔をしつつも、歩みを進めた。  二人は隣同士になりながらも、黙って歩いた。  通学路で二人は顔を合わせることがあるが、その時と同じく、巴はすまし顔をしつつもなぜか瞳だけは吊り上がっている。  俺たち、変わったな、と悟は思った。  そもそも、悟と悠斗、そして巴は、同い年の幼馴染三人組だった。  保育園のころはよく一緒に遊んだ。小学校に入ると、巴は女の子たちと遊ぶことが多くなったが、それでもたまに遊ぶことがあった。  巴はよく笑う子だった。少し泣き虫な子でもあった。
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