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 小学校一年生の時、三人で虫取りをするため、立ち入り禁止の雑木林に入ったことがあった。  カブトムシなどがいることを期待し、林の深くまで突き進んでいったが何も見つからず、あげく、帰り道を見失った。  林の奥は、昼間にも関わらず静かで薄暗い。巴は泣いた。悠斗も半べそをかいていた。  悟はなんとか勇気づけようと、二人に言った。 「大丈夫だ。実は俺、特殊能力があるんだ。こうやって鼻をつまめば、犬と同じくらい匂いをかぎ分けられるようになる。これで家の匂いを嗅いでたどれば、ちゃんと帰れる」  そういって悟は、真面目な表情で自分の鼻を思い切りつまんだ。  そのしぐさの可笑さに、巴は思わず噴き出した。悠斗もはにかんだ。  悟はうれしくなり、わざとらしく鼻をクンクンとひくつかせた。  もちろん悟にそんな能力はなかったが、適当に歩き進むうちに住宅街の裏手に出て、結局、ことなきを得た。 「悟、すごいね!すごい力ね!」  巴は目を輝かせながら悟を見つめた。そんな二人を悠斗は、黙って見つめていた。  それから四年。悟の隣を歩く巴に当時の面影は、全くと言っていいほど、ない。 「巴ってさ」
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