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女の子は街路樹を見上げながら、立ち尽くす。
後から追いかけてきた、お母さんと思われる女性がなだめる。「あんなところに引っかかったんじゃ、もう無理よ」と。
「いや。せっかくもらったのに。ふうせんー」
女の子は甲高い声で泣いた。
巴は、何とかできないかと憐れみの目で風船を見上げた、その瞬間。
何かが巴の視線を横切る。
悟だ。
悟がアスファルトを蹴り、飛び上る。
途中の枝に足をつき、もう一蹴り。悟はみるみるうちに、街路樹のてっぺんまでたどり着いた。そして幹で体を支えつつ、風船の紐をほどくと、そこから一気に地面まで飛び降り、スタンと着地した。
通行人は皆、足を止めていた。口をあんぐりと開ける中年女性。スーツ姿のサラリーマン、茶髪と小太りの二人組男性。
その視線を一身に受けながらも、悟自身はそれに見向きもせず女の子の方へと真っすぐ歩み出た。そして、手に持った風船を差し出す。
「はい。これ。もう離すなよ」
「お兄ちゃん、すっごーい!」
女の子は目を輝かせて言った。
巴はその姿を見て、思わず目を見開いた。
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